【亜種】ある雨の日、猫を拾った。
「いろはをさー、引き取ってもいいって人が、見つかったんだけど・・・・・・」
夕飯の席で、言いにくそうにユウジが口を開く。
アカイトがいろはを見ると、いろはは、相変わらず無表情でユウジを見ていた。
「本気で探してたのか」
「いや!本気では探してなかったんだけど!!なんか、俺がいろはを拾ったこと言ったら、欲しいてっ人がいるって言われて、仕方なく」
「おい」
「いやあの、会社の、同僚の知り合いなんだけど、まあ、年配のご夫婦で、あのー、子供がいないから、代わりにっていうか、そんな感じで」
「何だよ。何か問題でもあんのか?」
アカイトが促すと、ユウジは言いにくそうに、
「・・・・・・初期化してくれって、言われた」
食卓に、沈黙が落ちた。
最初に口を開いたのはアカイトで、
「そうか。そりゃ、普通はそう言うだろうな」
「ああ、うん。まあ、それが普通というか・・・・・・」
ユウジも、歯切れ悪く同意する。
「良かったじゃないか。ちゃんとした引き取り先が見つかって。いろはにとっても、そのほうがいいだろ」
「そ、そうかなあ」
「ここで、お前みたいな馬鹿の相手してるよりは、断然いいだろ」
「酷い!」だの「俺、マスターなのに!」だの騒ぐユウジを無視して、アカイトはいろはに話しかけた。
「良かったな、いろは。ちゃんとした引き取り先が見つかって」
「・・・・・・・・・・・・」
いろはは何かを言いかけたが、思い直したように口を噤むと、こくりと頷く。
「初期化の件は、サメジマさんにお願いすればいいな。後は、具体的な日時とか条件とか、ちゃんと確認しておけよ」
「あ、う、うん」
「いろはにとっても、いい話なんだからさ」
自分に言い聞かせるように、アカイトは繰り返した。
作品名:【亜種】ある雨の日、猫を拾った。 作家名:シャオ