【亜種】ある雨の日、猫を拾った。
数日後。
アカイトはいろはを連れて、サメジマのいる修理店へ向かう。
黙々と歩いていたアカイトが、突然いろはの手を取ると、別方向へ足を向けた。
「アカイトさん、そっちじゃありませんよ」
「黙ってろ」
大人しく従ういろはを連れて、アカイトは高台にある公園までやってくる。
よく晴れた空の元、眼下に町並みが広がっていた。
見晴らしのいいその景色に、いろはは、「綺麗ですね」と呟く。
「とても綺麗な景色だと思います。最後に見れて、良かったです」
「・・・・・・ちゃんと、分かるじゃないか」
アカイトは、いろはの手を握り、
「お前は、壊れてなんかない。初期化しなくても、ちゃんと「綺麗だ」と思えるじゃないか」
いろはがアカイトを見上げたとき、アカイトの携帯電話が鳴った。
画面を見ると、ユウジからの着信。
「もし」
『アカイト!!やっぱり駄目だ!!』
いきなりの大声に、アカイトは思わず携帯電話を放り投げる。
『アカイト!!もしもし!?アカイト!!聞いてる!?』
騒ぎ立てる携帯電話を拾い、耳から距離を置きつつ、
「・・・・・・お前、本気で馬鹿だろ」
『ちょ!酷い!!俺、マスターなのに!!いや、今はそんなこといいから!!それより、いろはを連れてっちゃ駄目だ!!』
「は?何言って」
『駄目だから!!初期化しちゃ駄目だ!!今のいろはが幸せにならないと!!』
「お前」
『俺が引き取る!!責任もって引き取るから!!だから、いろはを連れて帰ってきて!!』
ユウジの剣幕に、アカイトは溜息をついて、
「・・・・・・先方には、ちゃんと断っておけよ」
『分かった!!ありがとうアカイト!!』
作品名:【亜種】ある雨の日、猫を拾った。 作家名:シャオ