【亜種】ある雨の日、猫を拾った。
翌日から、アカイトはいろはに家事のやり方を教えつつ、テレビを見せたり、本を読んでやったりした。
分かったのは、いろはは指示を出されないと動けないということ、同じ作業を何時間でも繰り返してしまうこと、嘘や冗談が通じないこと、などなど。
そんないろはの姿を見ていると、自分達は所詮「機械」なのだと、改めて思い知らされる。
ヒトのように振る舞っていても、それは全てプログラムがなせる技なのだ。
それでも、アカイトは根気強くいろはの面倒を見て、いろはも、少しずつ感情らしきものを見せるようになってくる。
そんなある日のこと。
アカイトは、冷蔵庫の中をのぞき込むと、
「いろは、オレンジジュースとリンゴジュース、どっちがいい?」
こちらを見たまま、固まってしまったいろはを見て、
「・・・・・・ごめん。まだ難しかったか」
「すみません」
「謝らなくていい。今のは、俺の聞き方が悪かった」
そうは言っても、どう聞いたらいろはが答えられるのか分からず、アカイトは黙ってリンゴジュースをグラスに注いだ。
「はいよ」
「ありがとうございます」
目の前にグラスを差し出すと、いろはは頭を下げて受け取る。
「飲んでいいぞ」
「はい」
アカイトが、グラスを手にソファーに座ると、
「アカイトさん」
「うん」
「私は、初期化されないのでしょうか?」
「えっ」
いろはは、表情のない瞳を、アカイトに向けた。
「初期化して、一から設定し直した方が早いと、聞きました。私は、初期化されないのでしょうか?」
「初期化されたいのか?」
言ってから、アカイトは思わず自分の口を押さえる。
いろはは、少し考えてから、
「分かりません」
「・・・・・・ごめん」
アカイトは、いろはから視線を逸らし、ふっと息を吐いた。
「マスターが、それだけはどうしても嫌がるんだ。俺の時も、そうだった」
作品名:【亜種】ある雨の日、猫を拾った。 作家名:シャオ