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永遠に失われしもの 第15章

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それでも納得がいかないという顔をする
 ウィルをシエルの元に残して、
 セバスチャンと葬儀屋は、
 タオルミナの別荘を出る。



「ぼっちゃんのお昼前までに、
 済ませられれば、いいのですが」


「ここは本当にいい眺めだねぇ...」



 別荘正門を出た所で、葬儀屋は立ち止まり
 エトナ山と、午前中の陽光を浴びて、
 明るい青に染まるイオリア海を一望して、
 つぶやく。



「夜は、エトナ山から流れ出る溶岩も
 大変綺麗です」



 その光景は亡くなったカール・オレイニク
 がとても愛した風景の一つであった。



「それでどこに行くんだい?」

「そう、遠くはありません。
 パレルモの下町に住む、
 ある女に会いにいきます。

 では早速参りましょう」



 セバスチャンはそう言うと、
 トンと一跳びして、崖の下へ跳び降りる。

 

「私は飛んだり走ったりはもう御免さ..
 先にジェズ教会に行って待ってるよ」



 葬儀屋は、死神の鎌をふるって
 空間に消えていった。

 シチリア・パレルモの町に疾走しながら、
 セバスチャンは考えている。



 −−やはり昨晩の内に、
 見つけ出しておくべきでした。

 まだ、間に合えば良いのですが−−

 
 次第にパレルモの町が見えてくる。

 西欧文化とイスラム文化が混在した、混沌とした町は、ここ最近の好景気のおかげで、
 最近の流行を尽くした豪勢な建物が、ひっきりなしに建てられ、多くの人が集まり、
 非常に活気のある町になっている。

 下町にあたるアルベルゲリア地区の
 バラッロ市場に、
 セバスチャンは降り立った。

 極彩色の絵の具をパレットに搾り出すように、色とりどりの野菜や果物が、
 市場に並べられている。

 
 市場の奥に大きなパイプオルガンのように
 ジェズ教会が建っている。
 日曜のミサに訪れた人々が、
 その終わりと共に、
 教会から四方八方に去っていく。

 
 葬儀屋は、教会横手の黒い鉄製の柵に、
 身体を預けて立っていた。

 
「さすが、早かったねぇ...」



 二人は、道の端ギリギリまでアパートに、
 囲まれた細い道を抜けていく。

 何処の家も所狭しと、
 ベランダに洗濯物が干され、
 路地には誰かが飼っているのだろう
 鶏が歩き、子供たちが路地で
 遊び駆けている。


 その一角でも一際みすぼらしいアパートの
 前で、セバスチャンが立ち止まる。

 
 古い木戸を開け中に入ると、床が傾いでるのか、歩くたびにきいぃきぃと音を立てる。
 部屋の中はどこもきちんと整えられて、ベッドは丁寧にメイキングされ、
 建物の外見から想像するよりは、
 はるかに綺麗に整頓されている。


 部屋の主はどうやら外出中のようで、
 どこにも気配はない。
 部屋は静寂に包まれている。

 二人が厨房まで来たときに、
 その静寂が破られた。
 


「おや?...何かがあったみたいだねぇ...」


 
 厨房の調理場には、朝食用かと思われる
 硬そうなパンとナイフが、
 木のまな板の上に残されたままで、
 床には発酵したチーズや、果物、野菜が
 散乱している。

 ひどく取り乱して落としたにしては、
 散らばり方が広い。
 誰かに突如襲われたようにしか、
 見えない様子であった。



「先を越されましたね−−」


 セバスチャンは佳麗なその顔を不快そうに
歪め、つぶやいた。