永遠に失われしもの 第15章
「枷を外すことに関して、
どのあたりで私と一緒にされると嫌なのか
分かりかねますが、
私も取り合えず、
貴方と一緒にされるのは嫌なので、
その気持ちだけはよくわかります」
「害獣に理解されても、
ちっとも嬉しくありませんね」
お互いの睨み合いは、
今にも音を立てそうな勢いだった。
しばらくしてからセバスチャンはシエルの
折れそうな程細い足首に目をやった。
「私の居ない間に、
ぼっちゃんに触っているとは・・
私は貴方を見くびっていたようですね。
やはり葬儀屋さんをぼっちゃんの元に、
残していくべきでした」
「触りたくて触ったんじゃありません!」
「じゃ、無理やり、
やらされたとでも言うんですか?」
ふんとそっぽを向くウィルに、
セバスチャンは言葉を続けた。
「ちょっと席を外していただけますか?」
「どうせ、いやらしく舐めて、飼い主の
傷を直すつもりなんでしょう。
気持ち悪いので、絶対そちらなど
私は見ませんから、どうぞご自由に」
時折聞こえる淫猥な舌音が、
静まり返った広間に響いている。
「わざと音を立てることはないでしょう!」
よそを向きながらも、
ウィルはいらいらとした声を出す。
ずっと黙って様子を見ていた葬儀屋が
セバスチャンに尋ねた。
「そんなに大切にしているのに、
何故、執事君は枷を、
外してあげなかったんだい?」
シエルの傷から口を離して、
セバスチャンは夢見るような微笑を
しながら答えた。
「あまりにも似合ってらっしゃったんで、
外すのが惜しかったのですよ−−」
「狂ってる!何て悪趣味な・・」
ウィルが間髪入れず、実に不愉快かつ
はき捨てるように言う。
「何とでも」
セバスチャンは再び、
シエルの滑らかな肌にそって、
舌を這わせ始めた。
「ああ、そういえばあの女性の死亡時刻を
聞かないといけないんだったねぇ...
君わかるかい?シモーヌ・カサーレって
女性で、パレルモ在住の..」
再び続いた静寂を破って、
葬儀屋がウィルに尋ねる。
ウィルは小脇に抱える本を、
ぺらぺらとめくり調べ始めた。
「ちょっと待ってください。
ああ、ありました。
シモーヌ・カサーレですね。
今日午後四時四十四分死亡とありますね」
セバスチャンは流れるような仕草で、
懐中時計を取り出し、時刻を確認する。
「あと4時間ありますね−−
では、その前にお昼に致しましょう」
作品名:永遠に失われしもの 第15章 作家名:くろ