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永遠に失われしもの 第15章

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 セバスチャンは黒い燕尾服をすっと脱ぎ、
 白シャツとベスト姿になって厨房に立つ。

 厨房の壁に寄りかかり立って、
 ウィルが監視を続けている。

 セバスチャンは、葬儀屋とシモーヌの家を
 訪ねた後に立ち寄ったパレルモの、
 バラッロ市場で購入した食材を並べた。



「貴方も
 お召し上がりになりますでしょう?」



 セバスチャンはまな板上に玉ねぎを置き、
 包丁で切りながら、ウィルに尋ねた。



「いえ、結構です。
 ランチは持参しましたので」


「殊勝な心がけですね。
 貴方が作られたのですか?」


「いけませんか?
 他に誰が作るというんです?」



 セバスチャンはくっと笑いを洩らした。



「何を笑っているのです?不気味な・・」


「いえ、貴方と手作り弁当−−
 意外な組み合わせでしたので」



 話しながらも、異常に手際よく調理をする
 セバスチャンの華麗な手つきを、
 ウィルは眺めている。



「悪魔と料理上手ほど、
 意外ではありませんが・・」


「お褒め頂いてるのですか?
 これはありがとうございます」


「組み合わせのことを言ってるだけで、
 アナタを褒めたつもりはありません」
 


 次々に一品一品仕上がり、セバスチャンは
 皿に飾り物のように、綺麗に盛り付け、
 銀のワゴンに載せた。


 明るい日差しの差し込むダイニングの、
 テーブルに純白のテーブルクロスを敷き、
 ブーゲンビリアを飾って、
 シエルを主人の座る席に座らせる。

 客人の席には葬儀屋が鼻歌を歌いながら、
 既に着席して、
 料理を楽しみにしているようだ。

 その横の席にウィルが座っている。
 ウィルは目の前の皿に、自分で用意した
 簡素なサンドウィッチを置いた。


 セバスチャンが二人に食前酒を差し出す。


「本日のランチは、

 前菜に、赤海老のブレザオラ
 プリモピアットにポルチーニディリゾ
 セコンドピアットに
 サルディーニャ風パイ包みと馬肉のグリエ
 ドルチェとして
 カッサータセミフレッドと
 ピスタチオのジェラート

 をご用意させて頂きました。
 シチリアの味覚をどうぞご堪能ください」



 前菜として運ばれた赤海老のブレザオラは
 酢漬けされた海老に、賽の目にカットされたシャーベット状のグレープフルーツと
 生ハム、ルッコラ、ビスタチオを添え、
 赤・黄・緑の宝石が散らばるように、
 料理だと思えないほど美しい。



「これは..執事君、また格別だねぇ...
 これを食べられるだけでも、
 来てよかったよ...」



 葬儀屋はちらっとウィルのサンドイッチを
 一瞥して言う。



「ヒヒ、なんで君は食べないんだい?
 悪魔の作った料理を食べたって、
 別に規則に反するわけでもあるまいに..」


「悪魔は悪魔でも、
 セバスチャン・ミカエリスの作る
 料理なぞ・・

 それに食事なんて栄養が補給されれば、
 十分なのです。
 このように華美にしなければならない
 理由はありません」


「食の貧困な方には、
 何を言っても無駄ですよ」



 セバスチャンが白ワインを注ぎに葬儀屋の
 元に来て言う。
 ウィルは主人であるシエルの前の空の皿に
 目をやってから、言い返す。



「アナタ方だって、味の一つもわからない
 じゃありませんか」


「ええ、わかりませんよ。

 でも客人を満足させるのは、
 執事の務めですので、
 精一杯努めさせていただきました。

 貴方に味が分かるのなら、
 是非お試しください」



 セバスチャンはそう言って、
 前菜をウィルの前にも並べた。

 無言で食べ始めるウィルだったが、
 決して文句は言わなかった。