永遠に失われしもの 第15章
遠くでセバスチャンの声がする・・
(僕はまたセバスチャンにそっくりな少年を
見ている)
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ガラスを通して和らいだ陽射しを受け、
薔薇の葉についた水滴が一瞬煌くと、
葉脈をつたって空中へと放たれ、
白すぎる肌にぽたりと落ちた。
少年は薔薇の温室の煉瓦の床の上に
うつ伏せに寝かされ、顔を横に向け、
漆黒の髪が煉瓦の上で乱れている。
横で咲く白薔薇と同じ色のシャツの襟元が
乱れて、
青白く細い妖艶な首筋が見えている。
金髪の男は、その首筋に手を伸ばすと、
後ろから両手で首を思い切り絞めながら、
腰を規則的に動かした。
既に死んでいるかのように、
少年は何も言わず、呻き声一つあげない。
ただその紅茶色の瞳だけが、
ほんのつかの間の間、細められ、
苦痛を表しているようだった。
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なぜこいつは、
為すがままにされてるんだ?
何故泣き叫ばない?
何故力の限り抵抗しない?
自尊心はないのか?
誇りは?
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金髪の男は事を終えて、立ち上がる。
服を直して、傍らのイーゼルを寄せ、
画筆を片手にキャンバスに向かう。
しばらくして男は、同じ格好のまま
横たわる少年に見えるように、その絵を
運ぶ。
絵の中では、
少年は足を組んで椅子に座っており、
肘掛に肘をつき、その手に顎をのせて、
頭を気持ち傾げ、正面を向いて、
悪戯そうな微笑を浮かべていた。
そして、
僕が見ていることに気づいたのか、
二人とも、こちらを一斉に見る。
絵の中の少年の微笑が、笑いに変わり、
その口からキャンバスが裂け、
どろっと大量の黒い血が流れ出し、
うつ伏せになった少年に降りかかった。
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いや、僕の口からも流れ出ている。
どす黒い血が、とめどもなく・・
作品名:永遠に失われしもの 第15章 作家名:くろ