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永遠に失われしもの 第15章

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小脇に抱えた本を再度めくって、
 眼鏡をデスサイズで上げながら、
 ウィルが答える。



「シモーヌ・カサ−レの死亡予定場所は、

 アッビア旧街道、サンカリスト地下墓地の
 入口ですね」


「そう来ましたか−−」



 と答えるセバスチャンの耳に、
 どこか遠くから、
 シエルの声にならない悲鳴が届く。
 

 
 −−悪夢が始まったようですね。
 でもまだそれはほんの始まりに過ぎない。

 私とカールにまつわる夢を終わらせても、
 寄せては返す波のように、
 悪夢のさざめきが、
 貴方に押し寄せることでしょう。

 貴方が目覚めるまで、
 いや目覚めたときに終わる悪夢なら
 そう大したことではない。

 お早くお目覚めください。
 手遅れにならない前に−−



 憂いを含んだ表情をしながら、
 セバスチャンはシエルの寝椅子から、
 立ち上がる。



「そこなら小生は前に行ってるから、
 直接空間を開けるよ」


「では、空間だけお願いします。
 今回はシモーヌ・カサーレの魂の回収も
 ありますので、
 この害獣に取られぬよう私が同行します」



 中庭に出た葬儀屋が死神の大鎌で、
 さっと空間を切ると、
 そこにウィルとセバスチャンが消え、
 彼らの巻き起こした風と共に、
 中庭の花々を巡っていた一羽の蝶が、
 ひらひらと空間に飲み込まれていった。



 夕刻とはいえ季節的にまだまだ十分、
 陽は高く、その陽気は、
 これから来る夏には
 どれほどの物になるだろうと
 考えさせる程だった。

 サンカリストの地下墓地周辺は、
 もう観光時間を過ぎていることもあって、
 人はほとんどいなくなっていた。

 日中来た者も、
 自分の観光した場所の地下深くで、
 先日数十人が惨殺されたことなど、
 知る由もない。


 そのサンカリストの凡庸な田園風景に、
 突如太陽そのものような輝度の光球が、
 一点から見る見る間に広がり、
 光が消えると共に、

 長身で細身の黒い燕尾服姿の悪魔と、
 きっちりと折り目のついた黒スーツに
 金属製の縁のついた眼鏡をかけた、
 死神が現れた。

 ウィルとセバスチャンは空間を抜けた後、
 すぐにお互いの距離を取るように離れる。



「このシモーヌ・カサ−レという女性、
 オレイニク公爵家に二十年以上勤めた後、
 故郷であるパレルモに帰り、
 細々と暮らしている。

 アナタとどんな関係があるのですか?」


「何の関係もありませんよ。
 ただ彼女はそこに居てしまっただけの事」


「質問を変えましょう。
 アナタと彼女の仕えたカール・オレイニク
 との関係は?」


「それは−−ああ、彼女がやって来ました」



 通りの向こうから、疲れた女の人影が
 サンカリストの地下墓地に向かって、
 歩いてくる。



「魂、回収できれば良いですね」



 という言葉を残して、
 セバスチャンは、その女の影にむかい
 歩み出す。



「邪魔はさせませんよ!」



 怒気を含んだ口調でウィルは答え、
 彼の後をついていく。

 その質素なドレスを着て、背中を心持ち
 曲げ歩く中年の女はセバスチャンに気づき
 驚愕の表情を浮かべて、後ずさりした。



「ま・まさか・・・こんな事って・・
 レ・・レオ・アウグスト様」


「随分と、お久しい。
 ついぞ貴方の名前を知りませんでしたが、
 シモーヌと言うのですか−−」


「害獣め・・
 レオ・アウグスト・オレイニクだと!?」



 はき捨てるように言うウィルを無視して、
 セバスチャンがシモーヌに語りかける。



「ですが今は、申し訳ありませんが、
 貴方には用がありません、シモーヌさん。

 私が用があるのは、貴方の中の」



「私かい?」


 シモーヌの形相が一変して、
 獲物を狙い仕留めるような、
 狡猾な表情が浮かぶ。