永遠に失われしもの 第15章
「広間に参りましょう−−
ぼっちゃんのための寝室に三人でいて、
変な気を起こされても困ります」
幾らか血色が良くなり、シエルの蒼白だった肌が陶器の滑らかな純白に変わって、
漆黒の執事は主を抱きかかえ寝室を出る。
「私を、アナタと同じような次元で、
扱わないでください」
相変わらず、すぐにぴたりと背後につき、
部屋を出るウィル。
「そうですか?グレルさんの夢からすると」
「何を言ってるんですか?」
「いえ、何でもありませんよ」
広間の寝椅子にシエルをもたれかからせ、
セバスチャンは、銀のワゴンを運び、
空の紅茶の支度をする。
「せめて、座られたら如何です?」
優雅な動作で砂時計を返しながら、
セバスチャンがウィルに話しかける。
「悪魔の気遣いなんて不要です」
1メートルも離れてない位置で立ちつつ、
デスサイズで眼鏡を上げながら、
ウィルは、忌々しそうに返事をした。
「気遣いではありません。
せめて座ってもらえれば、視界から
少し外れますので」
セバスチャンは、紅茶色の瞳でまっすぐ、
ウィルを見つめた。
「フンッ!汚れた目を向けないでください」
ウィルは眼をそらしつつ、
壁際にあるスツールに腰掛けた。
セバスチャンは主の椅子の脇にある
ワインテーブルに、空のティーカップを置いた後、ワゴンにもどってもう一度、
茶の用意をし始める。
ウィルの座るスツールの脇にサイドテーブルを移動して、ティーポットを高く上げ、
ティーカップに湯気を立てながら、
紅茶を注ぎ、何もいわずにそっと置いた。
「だから、要りませんと言ったでしょう?」
「飲む、飲まないは、貴方のご自由に。
ただついでに、お出ししただけです。
ああ、毒などは、入っていませんので、
ご心配には及びませんよ。
私は貴方と違って、薬に頼る、
そんなまだるっこしい事はしませんから」
ウィルは眉間に皺を寄せたものの、
少ししてティーカップを取り、
紅茶を飲み始めた。
・・まったく、美味しいから、
さらにむかつきます・・
「主が暇そうですので、
何か話でもお聞かせください」
セバスチャンはごく平然と、
表情一つ変えず言う。
「私は、監視に来たのであって、話し相手に
呼ばれた訳ではありません」
「グレルさんなら、放っておいても、
沢山おしゃべりしてくださいますよ、
きっと」
「アレは、落ちこぼれですから」
「でも、今回はグレルさんの方が
優秀みたいですね。
貴方は監視相手に威圧感を与えて、
干渉してますもの」
「何を私から聞きたいと?
率直に言ってみなさい。
話すか、考えてあげます」
作品名:永遠に失われしもの 第15章 作家名:くろ