永遠に失われしもの 第15章
ウィルは何を言ってるのか分からない、
とでも言いたげな顔をしながら、答えた。
「ええ、行きましたが、
何だというのです?」
「カール・オレイニクの死体を見て、
どう思われましたか?」
口元に白手袋に包まれた手を添えて、
セバスチャンは尋ねる。
「どうって、貴方によって心臓を止められた
哀れな老人の死体だった、
というだけでしたよ。
それは、貴方が一番ご存知でしょう?
魂もすっかり抜かれて」
「そうでしたか−−」
興味深そうに、顔をやや下に向けながら、
セバスチャンは思案している様子である。
「だから、何だというのです?
何故そんなことを聞くのですか?」
ウィルは、焦らされている様で、
苛立ちを深めた。
「いえ、私が最後にお会いしたときは、
かなり実際の年齢よりお若かったもので。
二十歳ほど−−」
「アナタが彼を殺したときは・・・そんなに
若く見えたってことですか?
・・・・・アナタ以外の、
さらに害獣が関わっているとかいう類
の話ですか?」
「さぁ、そこまでは−−
ただ、サンカリストの地下墓地では、
確かに、私とぼっちゃん以外の気配を
感じましたが」
「うぅむ・・」
声にならない呻きのようなものを発して、
ウィルは嫌悪の表情を浮かべている。
「他に、カールのホテルの部屋で、
何か気になったものは、
ありませんでしたか?」
「別にありませんね。
魂の回収の目処もなかったんで、
よくは見ていませんが、
彼は画家だったんでしょう。
部屋には、画材やら
沢山のスケッチブック、描画や、
イーゼルなどが置いてありましたよ。
イーゼルには完成作品らしきものが
布に包まれて置いてあって」
「なるほど−−」
「そちらこそ、
それに何か気になる点でも?」
ウィルは、目の前の悪魔のもったいぶった
態度に腹を立てながら、尋ね返した。
「いえ、ただ−−私が御邪魔したときは、
イーゼルには、
何の絵も置かれてはいなかったのですよ」
恐らく、警察が死体を発見したときには、
すでにその絵はなかったであろう。
セバスチャンは、知っていた。
その完成した絵には、自分のように
漆黒の髪と紅茶色の瞳をした少年が
描かれているだろうことを。
そしてそれを持ち去ったであろう者に
ついても、おおよその見当はついていた。
−−ぼっちゃん、お気をつけください。
貴方が闇を見つめるとき、
闇も貴方を見ているのですから−−
作品名:永遠に失われしもの 第15章 作家名:くろ