こらぼでほすと 闖入8
「僕も触らせてもらったよ? ママ。お腹見せてたから、撫でさせてもらった。」
まだ、『吉祥富貴』を始める前の頃だから、シンとレイも知らないのは無理もない。これからどうしようかなと遊びほうけていた時期だったから、キラと悟空は吊るんでいろいろとやらかしていたのだ。普通は許可なんて降りないが、そこは天下の歌姫様のご威光を借りて、室内運動場のような場所で冬を過ごしていたマレー虎と対面させてもらった。
もちろん、最初は威嚇して飛び掛ってきたが、悟空が簡単に蹴りとパンチで降参させてしまった。それから、たまに逢いには来ていたとのことだ。店をやり始めて、悟空も学校に行き始めたから、最近はご無沙汰していたから、店のものも知らない。
「だから、悟空がいれば大丈夫です。帰ってきたら、また来ましょう、ニール。」
「俺、触りたくないけど、そのシーン見たいっっ。」
「俺も見たいです、アスラン。」
「おまえたちは時間の都合が合えば来ればいい。さて、そろそろトラムの時間ですね。」
アスランがキラの手を取って、さくさくと進み始める。前方に明るい光りがある。そこが、エントランスだ。
「悟空が体術は凄いのは知ってたけどさ。そんなことできるんだな? レイ。」
「ああ、さすがだ、悟空。」
「いや、普通は食われるからっっ。おまえさんたちも、無闇に手を出すなよ? 刹那、悟空の言うこと、ちゃんと聞かないと危ないんだからな。」
「わかっている。」
触る気満々の年少組に注意していて、油断したニールは小さな段差に蹴躓いた。慌てて、レイとシンが支えるし、刹那が右腕を引っ張る。大丈夫か? と、鷹も背後からニールの身体を掴まえた。
「すいません・・・鷹さん、俺の常識って間違ってるんですかね? 」
「いや、至極正常だ。うちのおサルちゃんが異常なだけだから気にするな、ママ。」
「そうそう、あいつも俺たちとは違う修羅場は潜ってきてるからな。大丈夫か? ママ。レイにでも負ぶってもらえ。」
虎も背後から声をかける。まあ、普通に考えてはいけない。あれは神様枠の生き物だからできることだ。『吉祥富貴』は普通ではない。その最たるところに位置しているのが、悟空とキラだから、一般人はスルーしておかなくてはいけない。
「いや、疲れたんじゃないから大丈夫です。はい、歩こう。」
周囲から支えられていたニールは自分で立って、前に居るシンとレイの頭を撫でて背中を向かせる。エントランスは目の前だから、また歩き出した。刹那が放浪の旅を再会する前に、もう一度、動物園に来ることは決定した。
エントランスに辿り着くと、既に予約していたトラムは準備されていた。電動のカートの大きいもので、連結すれば座席も増やせるものだから、この集団に見合う長さが連結されている。ひとつの箱に六人ぐらいが乗れる。しかし、総勢十名のはずの集団に三個連結されているし、すでに前方の席には数人が座っている。
「間に合ったんだね。」
キラは、ニコニコと、先客の横に座る。こちらを振り向いたのは歌姫様だ。だが、ここで正体がバレると騒ぎになるから、みな、黙って乗り込む。刹那がニールと並ぶように座ると、トラムは動き出す。
「こんばんわ、ママ。」
「よおう、おまえさんまで合流か? ラクス。」
「ええ、こういうイベントには、ぜひ参加したいですもの。ですが、スケジュールが消化できなくて、散策には間に合いませんでした。」
エントランスから離れてから、みな、挨拶する。トラムは自動運転だし、解説もポイントごとに自動でされるので、乗っているのは身内だけだ。護衛陣も一緒に乗り込んでいる。
「まずは、草食動物のエリアだよ。よく見ないと発見できないから注意してね。刹那、ほら、あそこにアリクイくん。」
キラは、せっせと刹那に動物の説明をしてくれる。ガイドの声も重なっているが、的確に動物を発見して教えてくれるので便利だ。
「ママ、こっちにキリンが。」
視界が狭いニールのために、レイも先に探して教えてくれている。こういう場合、コーディネーターの身体能力というのは発揮される。
「へぇーああやって、葉っぱ食べるんだな。クビ長いと便利だ。」
「でも、シン。お水飲む時とか大変そうだよ。」
「あーそうか。下向くのも、あの長さが必要になるんですね、キラさん。」
滅多に動物なんてものと接しない面々なので、生態がわかる展示方法は楽しい。昔の檻に入っているキリンでは、そういうことはわからなかっただろう。トラムはゆっくりとルートを巡り、またエントランスに戻って来る。それまで、かなりの動物を観察できたので、刹那も満足したらしい。
「ここで解散にします。お疲れ様でした。」
エントランスの一角で、アスランが解散を宣言する。ここからは、各自、クルマで帰ることになっている。歌姫様は、どうやらキラの捕獲を成功したらしく、アスランも、その後から、そちらに合流していく。大人組は、夫婦別に消えた。残るは、シンとレイと親子猫だ。
「俺らも寺へ泊まる。」
「たぶん、そうだろうと思って客間に布団の用意はしてきた。」
明日は日曜日だから、これといって用事はない。だから、シンとレイも寺へ居候する。
「キラが、あんなに動物に詳しいとは知らなかった。」
「ああ、キラさんは、しばらくオーヴと特区に隠棲してましたから。」
第三勢力として、プラントの地球支配を阻止した後、キラたちも、しばらくは大人しくしていた。その時に、あっちこっち出歩いていたのだろう、と、レイは説明した。シンとレイは大戦の後、事後処理で駆り出されていて、キラたちと合流したのは、その後のことだ。
「地球ってすげぇーな。いろんな種類の生き物が生きてるって実感した。」
「だが、シン。それでも絶滅危惧種は多いんだぞ。今日、見たものにも、そういうのが多かった。大戦で減ったのかもしれない。」
「それなら、うちの介入でもやられてるんだろうな。」
ここにいる面子は、何かしら戦闘に参加しているから、そういう被害を引き起こした側だ。だから、考えることはある。戦争を根絶するなんていう理念の親子猫たちだって、テロリストの根城や基地を焼き払ったりしているから、そういう被害もあったのだろう。そこまで考えていては、テロリストは務まらない。
「謝ったほうがいいか? 」
唐突に、刹那が口を開く。そういう被害に遭わせたことを、ここの動物たちに謝るべきなのか、という意味だが、親猫にしか通じない。
「ここのは保護されてるからいいんじゃないか。」
「そうか。」
「だからって、外で逢ったからって気軽にコクピット開けるなよ? 」
「わかっている。」
「なーなー、ねーさん、帰りコンビニ寄ってもいいか? 俺、ちょっと小腹空いた。」
「軽食ならチンすればあるぞ、シン。」
「甘いもんが食いたいんだ。」
「それなら、コンビニで確保してくれ。」
「オッケー。」
四人で、わいわい言いながら、ドライヴして寺まで帰った。明日は休みだから、多少、夜更かしになってもいいだろう。
作品名:こらぼでほすと 闖入8 作家名:篠義