さくべーですよ!
逃げたいが、イケニエを受け入れた以上、逃げるわけにはいかない。
佐隈に捕まる。
その腕に抱かれる。
「きゃー!」
今度は佐隈が興奮状態になった。
「ふかふか! 最高ですー!」
超が付くぐらいのハイテンションで、佐隈はベルゼブブをぎゅうぎゅう抱きしめる。
前回同様、佐隈はTシャツを着ている。
そして、前回同様、ブラジャーをしていないらしい……。
佐隈の胸のふくらみが、ベルゼブブの身体に当たっている、というよりも、押しつけられている。
その感触に、心がいやおうなしに揺さぶられる。
てめェの胸は凶器なんだよ、ビチグソ女ァァァーーーー!
ベルゼブブは胸のうちで叫んだ。
しかし、その叫びを口から出さずに、ひたすら耐える。
これはきっとなにかの修行なのだ。
遊びたいのを我慢して勉強を頑張ったら、成績があがり、獄立大にも合格した。
それを同じように、今ここで耐えれば、きっとなにかが身について、将来のためになる……のか?
ベルゼブブは気が遠くなってきた。
もう勘弁してください。
そう思ったとき、佐隈の腕の力が急に弱まったのを感じた。
やっと解放されるのかと思い、ベルゼブブはほっとする。
けれども、佐隈はベルゼブブを放さない。
ベルゼブブを抱いたまま、佐隈の身体が揺れた。
床に引き寄せられたかのように、佐隈の上半身がゆっくりと倒れていく。
「!」
「眠くなってきました〜」
佐隈は床に寝転がっている。ろれつが怪しかったが、その声は明るかった。
「さくまさん」
ベルゼブブは呼びかける。
「私を放してください」
「嫌です〜」
「じゃあ、放さなくてもいいですから、寝るなら、ベッドに行きなさい」
もちろん本当は解放してほしいのだが。
「こんなところで寝たら、風邪をひきます」
「心配してくれているんですね、ベルゼブブさん」
「……そういうわけでは」
「そういうわけでしょう」
佐隈は軽く笑った。
そして、ベルゼブブをぎゅっと抱きしめる。
「ベルゼブブさん」
酔って気分が良くなっているような、とろりとした声で、佐隈は言う。
「だーーーーい好きですーー……」
ベルゼブブの心臓が大きく揺れた。
胸の中で、ドキィィィッ、と鳴った。