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さくべーですよ!

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「さて、今のあなたの状況について考えてみましょう」
眼を見張っている佐隈を見おろし、その顔の近くでベルゼブブは話す。
「今、この事務所にアクタベ氏はいない。出かけているそうですね。私をこの姿にもどして買い物に行かせようとしたぐらいですから、アクタベ氏は今日はもう帰ってこないか、帰ってくるにしても、かなり遅くなるのではないのですか」
問いかけたが、佐隈は返事をしない。
しかし、ベルゼブブの推測が間違っているのなら、それを指摘するだろう。
沈黙は肯定を意味する。
「アザゼル君もいない。召喚していないとのことなので、人間界にもいないのでしょう」
今年は魔界と人間界がよく重なる時期だから、アザゼルが絶対に人間界にはいないとは言いきれない。
けれども、それについて、今は触れないでおく。
「そして、客もいない」
ベルゼブブはメガネのレンズの向こうの佐隈の眼をじっと見る。
「今、この事務所には、私とあなたしかいません。つまり、ふたりきりなんですよ」
部屋にふたりきりになるのは、これが初めてではない。
だから、佐隈はまるで危機感を抱いていなかったのだろう。
それが問題なのだとベルゼブブは思う。
佐隈にそれをわからせたい。
「あなたにとっては武器にもなるグリモアは近くにはありません」
ベルゼブブを召喚するために使ったグリモアは、メモと地図を用意するために自分のデスクに向かう際、佐隈は持って行った。
それから、佐隈はメモと地図だけを持ってこちらにもどってきたので、グリモアはデスクに置いてきたらしい。
「さらに、私はカレーを食べていません。イケニエを受け入れたわけではないので、あなたの言うことをきく必要がありません」
事務所には自分と佐隈のふたりきり。
邪魔をする者はいない。
そのうえ、佐隈が結界の力を解いてくれたので、自分は本来の姿である。
状況がきわめて良い。
この機を活かさなければならない。
そう考えて、カレーライスを食べたように装い、実際には食べなかったのだ。
「ねえ、さくまさん」
呼びかける。
ベルゼブブには余裕がある。
だが、佐隈は緊張しているようだ。
ようやく状況を理解し、身の危険を感じているらしい。
ベルゼブブにとっては喜ばしいことである。
「あなたがいつも見ているのは、あなたよりも小さな、ペンギンのような姿の私です。でも、あれは、あなたも知っているはずですが、結界の力がかかっているからこそです。私の本来の姿はこちらなんですよ」
片方の手を、佐隈の顔のほうにやった。
ペンギンのような手ではなく、悪魔らしい手だ。
「悪魔は契約関係にある人間に対し、害のあるような能力の行使はできません」
強張っている佐隈の頬を、そっとなでる。
「だから、私はあなたに対して、暴露は使えません」
そう、ベルゼブブの職能である暴露は使えないのだ。
しかし。
それ以外は?
「ですが、たとえば、さっき、私はあなたをつかまえて、こうしてソファへと倒しました。そうされて、あなたは怒っていましたから、あなたにとっては不愉快なことだったはずです。あなたにとっては害のあることと言えます。でも、私はグリモアの制裁をまったく受けていません」
だいたい、これまでも、アザゼルが佐隈をたたいたりしても、佐隈本人もしくは芥辺から制裁を受けることはあったが、グリモアからの超常現象的な制裁を受けてはいなかったのだ。
「職能とは関係がなければ、悪魔であるからこその能力とは関係がなければ、契約関係のある人間に害のある行為をしてもゆるされる、あるいは、ある程度まではゆるされるのでしょう」
さすがに契約関係にある人間を殺そうとすれば、悪魔としての能力を行使していなくても、グリモアからの制裁を受けそうだ。
「では、どこまでなら、ゆるされるのでしょう?」
逆襲を、と言ったジイの声が耳によみがえった。
「試してみましょうか」
ベルゼブブはいっそう顔を近づける。
「ちなみに、悪魔と人間の姦淫そのものは可能ですよ」
佐隈の顔のそばで、ささやいた。
作品名:さくべーですよ! 作家名:hujio