さくべーですよ!
佐隈が近づいてくる。
ハッとして、ベルゼブブは佐隈に背を向けた。
「ベルゼブブさん、どうして逃げるんですか〜」
「嫌だからです」
「別にいいじゃないですか、減るもんじゃないんですし」
「減ります! 人としての……じゃない、悪魔としての尊厳が!」
しかし、部屋はあまり広くない。
もう壁が近くにある。
このままでは迫ってくる魔の手につかまってしまう。
ふと、ひらめいた。
自分には羽根がある。飛べばいいのだ。
異常事態に気が動転していて、それを忘れていた。
佐隈の手の届かないところまで飛ぼう。
そう思った。
だが。
「!」
直後、うしろから上着の襟をつかまれた。
「はっ、放してください……!」
ベルゼブブは逃れようとジタバタする。
「イヤです〜」
放すどころか、佐隈はベルゼブブの上着をぐいぐいと自分のほうへと引っ張る。
そうこうするうちに。
「あれっ?」
佐隈が不思議そうな声をあげた。
ほぼ同時に、ベルゼブブは自分の身体から上着が離れていくのを感じた。
ベルゼブブはぎょっとする。
「これって脱げるんですね〜」
感心したように佐隈は言った。
ベルゼブブは慌てて、佐隈を振り返る。
「私の服です! 返しなさい!」
奪われた自分の上着を取り返そうとする。
だが、そのために、佐隈に近づいてしまった。
佐隈が顔を輝かせる。
マズい。
そうベルゼブブは危険を察知したが、遅かった。
佐隈が襲いかかってくる。
逃げられない。
つかまる。