さくべーですよ!
条件反射のように、身体をさっと起こして佐隈から少し離れる。
触れていてはいけないような気がしたのだ。
いや、触れているのが恐かった。
自分のしたことのせいで、佐隈は泣いているのだから。
佐隈がベルゼブブのほうを見ないようにして身体を起こした。けれども、立ちあがらず、ソファに座っている。
その顔をあげない。うつむいている。
表情を見られたくないようだ。
しかし、うつむいていても、泣いているのはわかる。
さっき見た佐隈の泣き顔がベルゼブブの脳裏に焼きついている。
頭に浮かんでいて、消えてはくれない。
どうしたらいいのだろう。
事態を良いほうに変えたい。
「さくまさん」
呼びかける。
でも。
「あの……」
なにを言えばいいのか。
わからない。
顔を隠すようにうつむいている佐隈に対し、どんな言葉をかければいいのか、わからない。
どうすれば。
ああ、どうすればいいのだろうか。
わからなくて。
「さくまさん」
自分の心にあるものを、そのまま口に出していく。
「泣きやんでもらえませんか」
そう、自分は佐隈に泣きやんでほしいのだ。
なぜなら。
「私は、あなたが泣いていると、困ります」
困っている。
今の自分の心情はたしかにそんな感じなのだが、伝わりやすいように、言葉を足すことにする。
「あなたが泣いていると、私はつらいのです」
胸が、心が、痛いのだ。
「だから、泣きやんでもらえませんか」
しかし、佐隈は黙っている。うつむいたままでいる。
当然だろう。
泣かせた当本人がつらいからという理由で頼まれて、泣きやむはずがない。
「さくまさん、私は、どうすればいいですか」
どうすればいいのかわからない。
「どうすれば泣きやんでくれますか」
わからないから、問いかけた。
けれども、佐隈は答えない。
だから。
「どうか、教えてください。お願いします」
そうベルゼブブは佐隈の心に訴えかけるように頼んだ。