さくべーですよ!
「な、なななななな、なぜ、どうして、さくまさん、あなたが、ここに!?」
ベルゼブブは取り乱し、ガタンッと大きい音をさせてイスから立ちあがった。
だが、佐隈はベルゼブブの質問には答えずに無言で近づいてくる。
そして、テーブルのそばまで来ると立ち止まり、ベルゼブブのまえに食器を置き始めた。
「あのっ、さくまさん……?」
そのベルゼブブの呼びかけも無視された。
佐隈は配膳が終わると、テーブルに置かれたカレーに右の手のひらの指先を向けた。
ベルゼブブに向かって微笑みかける。
「どうぞ」
カレーを食べるよう勧めている。
だから。
ベルゼブブはふたたびイスに腰かけた。
皿の横に配置された銀のスプーンを、ガシッとつかむ。
「いただきます」
礼儀正しく告げ、スプーンをカレーのほうにやった。
ベルゼブブはカレーを食べる。
それも、勢いよく。
ガツガツと食べる。
その食べっぷりを、テーブルの向こうにいる見合いの相手はぼうぜんと見ている。
しかし、ベルゼブブは彼女の視線をまったく気にしない。
「ウメェッ」
お嬢様の憧れの人らしからぬ言葉遣いで、ほえた。
「クッソウメェッ!」
彼女にどう思われても、かまわない。
憧れを打ちくだくのは少々申し訳ないのだが、今はそんなことにかまってはいられない。
カレーを食べることに集中したいのだ。
勢いよく食べているので、カレーはどんどん減っていく。
やがて、完食した。
ベルゼブブはコップの水を一気に飲み干す。
カラになったコップをテーブルに置く。
ふーっとひと息ついた。
そのあと、佐隈のほうをチラッと見る。
眼が合った。
佐隈は満足そうに笑っている。
ちくしょう。
そうベルゼブブはお坊ちゃんらしくない悪態をつく。
ちくしょう、可愛いじゃねーか。
自分に向けられている笑顔が、やけに魅力的に感じられて、それが、なんだか、くやしいのだ。