さくべーですよ!
一方。
「優一さん、これは一体どういうことなんですか!?」
見合いを勧めてきた夫婦のうち妻のほうが、厳しい声で問いかけてきた。
その声を聞いて、ベルゼブブは彼らの存在を思い出した。
ベルゼブブは彼らのほうに眼をやる。
夫婦はどちらも不快感をあらわにしている。
当然だろう。
彼らがセッティングした見合いの席が、いきなり現れた人間の娘のせいで壊されてしまったのだから。
ふたり分の厳しい視線を浴び、けれども、ベルゼブブは平然と彼らを見返した。
「どういうことなのか」
落ち着いた声を発する。
「それぐらい、わかりませんか?」
ベルゼブブは優雅な動作でイスから立ちあがった。
そして、佐隈との距離を詰める。
堂々と胸を張り、ベルゼブブ一族の代表としての威厳を漂わせつつ、佐隈のすぐそばに立つ。
それから、きっぱりと告げる。
「私にとって一番大切なのは、彼女なんです」
ベルゼブブは佐隈のほうに手をやって、その背中を抱くように、自分とは反対側にある肩をつかんだ。
佐隈が身体を震わせた。
びっくりしたらしい。
一番大切なのは彼女のカレーだと言えば、驚かなかったかもしれない。
しかし、それでは、この場は収まらない。
突然やってきたのだから、これぐらい話を合わせてほしい。
それに。
一番大切なのは、彼女。
それで間違いないのだ、自分の中では。
ちくしょう。
胸のうちで、ふたたび悪態をつく。
酒乱のセクハラ女に、いつのまにか自分はつかまってしまっていたらしい。
ガタンッ……!
イスが大きく鳴ったのが部屋に響いた。
見合いの相手が立ちあがったのだ。
「私、これで失礼します!」
キッと鋭い眼差しをベルゼブブに向けて、宣言した。
彼女に非難されてもしかたない。
それがわかっているので、ベルゼブブは軽く頭を下げた。
見合いの相手が足早に部屋から出ていく。
彼女のあとを追って、見合いを勧めてきた夫婦も部屋から出ていった。