さくべーですよ!
部屋に佐隈とふたりきりになった。
と思ったら。
「ヒューヒュー」
はやしたてる声が聞こえてきた。
その声の主が部屋に入ってくる。
アザゼル、だ。
「べーやんはふだんはヘタレやけど、キメんなアカンときは、ちゃーんとキメんねんなァ」
にやにや笑いながら近づいてきた。
「……アザゼル君」
ベルゼブブは佐隈の肩をつかんでいた手をおろし、アザゼルをジロッと見る。
「やはり、君がさくまさんをここに連れてきたんですね」
佐隈が現れてすぐはビックリ仰天したが、彼女がひとりで魔界に来たとは思えず、アザゼルの言動が頭に浮かんできたのだった。
「ああ、せや。協力するってゆーたやろ」
アザゼルは一点の曇りなき笑顔で、朗らかに言う。
「ワシ、役に立ったやろ」
「……」
なんと返事したら良いのだろうか。
アザゼルが佐隈を魔界に連れてきたことで、見合いはぶち壊しになった。
だが、この縁談は早い段階で無くなって良かったのだ。
そう心から思う。
「ええ友達持って良かったな、べーやん!」
「……ええ、まあ、はい」
ニカッと笑うアザゼルに対し、とりあえずベルゼブブは同意しておいた。
それから、佐隈のほうを見る。
「さくまさん、どうして、あなたはここに来たのですか?」
佐隈が魔界に来たのは、アザゼルが連れてきたからだ。
しかし、無理矢理に連れてこられたのではなさそうである。
魔界に来た方法はわかったが、魔界に来た目的がわからない。
「ああ」
佐隈は明るい声をあげた。
「アザゼルさんに言われたんです。ベルゼブブさんがお見合いをして、他人のものになってもいいのかって」
「……ほう」
それは。
どういうことなのか。
ベルゼブブが見合いをして他人のものになっても良いと思ったのなら、佐隈は魔界に来なかっただろう。
つまり、魔界に来たのは、それが嫌だと思ったからではないのか。
期待してもいいのだろうか……?
ベルゼブブは探るように佐隈を見て、話の続きを待つ。
すると、佐隈はふたたび口を開いた。
「ベルゼブブさんが結婚したら、さすがに、もう夜中に喚びだして抱きしめたりできないって、アザゼルさんに言われたんですよね」
佐隈の目的は、どうやらベルゼブブのプリチーボディであったようだ。
やっぱりか、とベルゼブブは思った。
やっぱり、そういういうオチだったのかああああああ!!!
胸のうちで、叫んだ。
期待してはいけないことを、これまでの経験から学習したはずなのに、ついウッカリ期待してしまった自分が情けない。