さくべーですよ!
ベルゼブブは少し恨みのまじった眼で佐隈をじとっと見る。
「あなたは私のプリチーボディを失いたくなくて、見合いをぶち壊したんですね」
佐隈を非難した。
だが、佐隈の顔に影が落ちることはなかった。
「でも、ベルゼブブさん、あのとき、お見合いを続行しようと思えば、できましたよね?」
「う……っ」
「つまり、ぶち壊しても良かったということですよね?」
「ううううう」
その通りで、しかし、それを認めるのはくやしい。
だから。
「まったく、悪魔だ、いや、魔女だな、てめェはよォ!」
腹いせに口汚く罵った。
けれども。
「まあ、たしかに、私は悪魔使いですから、魔女かもしれないですね」
佐隈は笑っている。
それにしても、初めて魔界に来て、この落ち着きはどういうことか。
順応性が高い、というか、高すぎる。
図太いのだ、佐隈は。
しかし、そんなところもいい。
なんて思ってしまう自分は、どうかしている。
つかまってしまったのは自覚しているが、この先ずっと逃れられないような嫌な予感がした。
そのとき。
「優一様」
ジイの声がした。
ベルゼブブはそちらのほうに眼をやる。
「そういえば、ジイ、おまえだろう、さくまさんをこの部屋に通したのは」
アザゼルが佐隈を連れてこの城まで来たとしても、ジイが許可を出さなければ、見合いの席に乱入できなかったはずだ。
「はい、そうです。この部屋にお通ししただけではなく、さくま様に頼まれて、台所もお貸ししました」
佐隈に台所を貸した。
だから、カレーはほかほかだったのだ。
「なぜ、そんなことを」
突然やってきた人間の娘に、どうして、そんなことをゆるしたのか疑問に思った。
「それは」
ジイは開いているのか開いていないのかわからない眼を、佐隈のほうに向けた。
「以前に優一様が朝帰りしたときに、優一様の身体に優一様のものではない髪が付いていましたが、このぐらいの長さの黒い髪だったと思い出しまして」
その視線の先には佐隈の黒髪がある。
ベルゼブブはぎょっとした。
一方。
「ああ、それは、きっと私の髪です」
佐隈はあっさりと認める。
「いつのまにかベルゼブブさんに付いてしまっていたんですね」
「やはり、あなたでしたか」
ジイは大きくうなずいた。
「あなたが、優一様と一夜を共にされたのですね。いや、一夜どころではありませんね」
「ええ、そうですね」
ふたりは、にこやかに話している。
他人が聞いたら絶対に誤解するような内容を、だ。
わあああああ、とベルゼブブは内心あせった。
近くで話を聞いているアザゼルはニヤニヤ笑っている。