さくべーですよ!
けれども。
「蹂躙されたなんて、大げさですよ」
佐隈は笑った。
同時に、抱きしめる力が弱まる。
そのおかげで、ベルゼブブの心に少し余裕ができた。
「大げさではありません。あなたは私にひどいことをしたのです」
「そんな〜」
佐隈はベルゼブブにとがめられても平然としている。
ベルゼブブはいっそう腹がたった。
なにか佐隈を非難する材料がほしい。
そう思ってすぐに、ひらめいた。
「そういえば、私はあなたからイケニエをいただいていません」
今はタダ働きさせられている状態なのだ。
もっとも、時間がたてば、そのツケは佐隈に行くのだが。
「ああ、イケニエ」
「はい。このままだとどうなるか、あなたはよく知っているはずです」
グリモアの動物化けの罰が下るのだ。
「ハエになるわけですね」
「おそらく」
「それは困ります」
「だったら、すぐにイケニエを持ってきなさい」
「でも、今、うちにカレーの材料がないんですよね」
イケニエの用意もなく悪魔を召喚したのか。
いつもの佐隈ならありえないことだ。
やはり、そうとう酔っているのだろう。
「でしたら、あなたのお……」
あなたの黄金を寄こしなさい。
そう要求するつもりだった。
しかし、その途中で。
「あ! そうだ」
佐隈はなにか思いついたように言った。
ふたたび、ベルゼブブは嫌な予感がした。
直後、佐隈はベルゼブブを床に寝かせた。
「!?」
予想外の佐隈の行動に驚き、眼を見張る。
そんなベルゼブブの上に佐隈の顔があった。
佐隈は明るい表情で、告げる。
「イケニエは、ちゅーです!」
「なッ」
なにをバカなことを言っているんだ、このビチグソ女がアァァ!!
そう怒鳴ろうとした。
だが。
ちゅっ。
やわらかな唇に阻止されてしまった。