さくべーですよ!
ベルゼブブの頭の中は真っ白になる。
一方、佐隈は上機嫌な様子で離れていった。
彼女にしてみれば、ぬいぐるみ、もしくはペットにキスしたような感覚なのだろう。
しかし。
自分はぬいぐるみでもペットでもない。
「ワタクシは魔界の貴族で、エリートなんですよ……」
「そうですね」
軽く相づちを打ちながら、佐隈はメガネをはずす。それをメガネケースにしまうと、テーブルの上に置いた。
佐隈がそばにもどってきた。
そして、ベルゼブブを抱きあげる。
それから、ベルゼブブを抱いたまま移動し、やがて、部屋の灯りを消した。
「なぜ灯りを消したのですか?」
「もう寝るからです」
「それなら私は魔界に帰ります」
「ダメです」
佐隈は一点の曇りなき笑顔で告げる。
「ベルゼブブさん、これから、抱き枕になってください」
その歩く足が止まった。
ベッドのすぐそばで。
「ピギャー!」
ベルゼブブは言葉にならない声を喉からほとばしらせる。
だが、その叫びは無視され、ベルゼブブは佐隈に抱かれてベッドに入った。