さくべーですよ!
朝が来た気配をうっすらと感じた。
眠っていたベルゼブブの意識が、まだぼんやりとではあるが覚める。
ふと。
背後からまわされている自分のものではない腕が動いた。
「……?」
なんだ、この状況は?
それを考えて、ハッとする。
ベルゼブブは勢いよくベッドから上半身を起こした。
そして、隣を見た。
佐隈と眼が合う。
直後。
「「ぎゃー!!」」
叫んだ。
ただし、叫んだのはベルゼブブだけではなかった。
佐隈も、である。
「な、なんで、ベルゼブブさん、その姿なんですか……!?」
「その姿?」
なんのことかと思い、ベルゼブブは自分の姿を見る。
視界に入ってきたのは、ペンギンのような姿ではなかった。
魔界にいるときと同じ姿である。
いつのまにか結界の力が解けていたようだ。
しかし、心あたりはない。
「なぜかと聞かれても、私には答えられません。知りませんからね、そんなこと」
ベルゼブブは佐隈をふたたび見た。
佐隈はベッドの上でベルゼブブと距離を空けようとしている。
無理もない。
ぬいぐるみのような存在と一緒に寝ていたはずが、眼が覚めて、自分のすぐそばにいたのは成人男性だったのだから。
ベルゼブブは眼を細める。
「ですが、これで、あなたもよくわかったでしょう」
厳しい声で佐隈に言う。
「あなたがどれほど愚かなことをしたのか、が」
人間界では、結界の力がかかっているせいで、いつもペンギンのような姿である。
だが、今の姿こそが、ベルゼブブの本来の姿なのだ。
そんな相手を佐隈は抱きしめたり、自分からキスしたり、ひとつのベッドで寝たりしたのだ。
「いくら酔っぱらっていたとはいえ、反省すべきです」
「ベルゼブブさん、すみません……」
佐隈は肩を落とし、うつむいている。
おお、さっそく謝罪してきたか、とベルゼブブの気分は少し良くなった。
けれども、佐隈の台詞には続きがあった。
「二日酔いで気分が悪いので、お水を持ってきてもらえませんか……?」
「あれだけ飲んだら、そうなってあたりまえ……って、さくまさん、あなた、私の話をちゃんと聞いてましたか!?」
すみませんと佐隈が謝ったのは、ベルゼブブに水を持ってきてもらいたかったからのようだ。
ベルゼブブの話を聞いて反省したのではないのだ。
そもそも話をちゃんと聞いていたのかどうか。
「ベルゼブブさん……。大声出さないでください。ただでさえ痛い頭に響きます……」
自業自得だと怒鳴りつけてやりたくなる。
しかし、佐隈はつらそうな顔をしていて、耐えきれなくなった様子でベッドに倒れてしまった。
「〜〜っ!」
結局、ベルゼブブは言葉を呑みこみ、しぶしぶではあるが、水のある場所のほうに行った。