さくべーですよ!
告白は突然に
夕暮れ刻。
ベルゼブブは芥辺探偵事務所のソファでくつろいでいた。
佐隈にアザゼル篤史とともに召喚されて、そのあとイケニエであるカレーを食べたのだが、今のところ悪魔の仕事はないというわけで待機中である。
芥辺と佐隈はそれぞれのデスクにいて、芥辺はいつものように本を読み、佐隈はパソコンでなにか作業をしている。
部屋の空気はゆったりとしている。
だが。
ピンポーン。
呼び鈴の鳴らさる音が響き、それまであった空気が破られた。
佐隈が対応するためにデスクを離れてドアのほうに行く。
しばらくして、客が入ってきた。
有閑マダムといった感じの風貌の女性である。
夫の浮気調査の依頼だろうか。
上品な様子の女性は、ふと、ソファのほうを見ると表情を一変させた。
「まあ、まあ、まあ!」
顔を輝かせている。
「なんて、可愛いペンギンちゃん……!」
うっとりとした表情、その熱い眼差しは間違いなくベルゼブブに向けられている。
どうやら彼女は悪魔が見える人間であるようだ。
たしかに自分は可愛い。
ベルゼブブは今の自分のプリチーさに自信がある。
自分を見た者が褒めるのは当然の反応だ。
しかし、この女性がやけに興奮しているのが、その鼻息の荒さが、なんだか恐くもある。
女性はベルゼブブの愛らしさに衝撃を受けた様子で立ち止まっていたが、また、歩きだす。
ベルゼブブだけを見て、一直線に近づいてくる。
逃げたい。
そうベルゼブブが思ったとき。
さっと佐隈がベルゼブブと女性のあいだに立った。
ベルゼブブはほっとした。
その直後。
ぺたっ。
なにかが額に貼られた。
視界が白いものでさえぎられた。
紙だ。
その紙をセロハンテープでベルゼブブに貼ったのは、佐隈である。
佐隈の声が聞こえてくる。
「こういうわけですから、手を触れないでください」
少し堅めの声で、きびきびと告げた。
こういうわけとは、なんだ。
気になって、ベルゼブブは自分の顔のまえにある紙を引っぺがした。
そのA4サイズの紙には字が大きく書かれていた。
売約済、と。
「わ、私は、自分をだれかに売った覚えはありませんッ!」
ベルゼブブは紙を持った手を振りあげて、猛然と抗議した。
すると。
「そうですね」
佐隈はメガネのブリッジを押さえつつ、冷静そのものの様子で肯定した。
そして、ベルゼブブの手から紙を取った。
紙を捨てるのかとベルゼブブは思ったが、佐隈はそうしなかった。
佐隈はデスクに紙を置き、ペンでなにかを書いている。
しばらくして、佐隈はもどってきた。
ベルゼブブに紙を差しだす。
それをベルゼブブは受け取り、なにが書かれているのかを見た。
売約済、の「売」に斜線が二重に引かれ、その横に「契」と一文字書かれている。
「それで問題ないですよね?」
佐隈が聞いてきた。
契約済、だ。
うん、合っている。
書かれていることは事実なので抗議できなくなってしまった。