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座敷童子の静雄君 1

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婆の遥か背後にあった室内、その中央の座布団に鎮座する、紺色の着物を纏った爺の木彫り像は、どうやら盾となる呪具だったようだ。
広いが丸い背の影に隠れた帝人の姿はうっすら透けており、見えにくくなっている。
彼女は今、涙をぼろぼろ零しながら、可哀相なぐらい脅えてガクガクに震えている。

「……しずおくん……、しずおくん、しずおくん……」
「帝人、帝人帝人帝人帝人帝人ぉぉぉぉぉ。今行くから、絶対行くから、最後まで諦めんじゃねぇぇぇ!!」

こちらからどんなに叫んでも、声はきっと届いていない。

縁側の婆が空にかけたのだろう、透明な障壁が暫く持ちこたえていたが、黒竜が何度も体当たりを決め、やがて稲光が空一面に走った。
≪……帝人、池まで走れ!!……≫
次の瞬間、長い尻尾が鞭のように撓り、こじんまりとした老婆の体を勢い良く吹っ飛す。

婆の命令通り、息を殺した帝人が嗚咽を耐え、脱兎で爺の彫り物の影から飛び出した。
そして、裸足のまま庭に転がり出る。
彼女の頭の上を、黒竜の尻尾が勢い良く振り落ちるが、人間、命がかかっていれば必死になるもので。
見るからに鈍臭い彼女だったが、奇跡的に避ける事ができた。

こけつまろびつ鯉の泳ぐ庭池に辿り着いた彼女は、その手に風呂場で静雄に貸してくれた、あの手鏡を握り締めていて。

「し……、しずおくん……しずおくん、お願い……たすけてぇぇぇぇ!!」

その手鏡を、祈るように両手で勢い良く池に漬けた。
途端、こっちの水桶の中に漬けられていたペンダントが、やっと眩く光りだし。

「静雄、直ぐに石を掴め!!」
「おう!!」

新羅に言われるがまま、静雄も弾ける様に水の中に両手をつっこみ、青い石をぎゅっと握り締めた。


☆★☆★☆


どうやら、帝人が持つ鏡と、幽に貰ったペンダントが鍵だったらしい。
静雄のペンダントが水に濡れた状態で、彼女の手鏡も同時に濡れれば道が開けるようだ。
あの不快なジェットコースターが急降下するような重力に押しつぶされつつも、歯を食いしばって意識を失わずにいられた彼は、目を開けた時、自分がちゃんと帝人の元に帰れた事に安堵の息を漏らした。

「しずおくん!!」
「もう……だいじょうぶ……」

抱きついてきた帝人の頭を、ぽしぽしと撫でてから、ぎっと空を睨む。
漆黒の禍々しい邪竜が、侮るようにゆっくりと大きな顎を開きやがった。

(……絶対、殺させねぇ……)

苔生した岩に両手を伸ばす。勿論、投げつけてやる為だ。
敵は空、こんなチビな体では、飛び掛ったって放物線を描いて地上に落下するのが関の山。
何とかあいつを地面に引きずり落とさねば、話にならない。

≪静雄、受け取れ!!≫
耳に新羅の声が響くと同時に、セルティ愛用の武器、漆黒の鎌が池の水面に現れた。
(ありがてぇ!!)

正直、空に浮かぶ化け物相手に、このチビな体でどう戦おうかと考えあぐねていたから、この獲物は嬉しかった。
帝人を背に庇いつつ、仁王立ちになり、ぶんっと横に振って身構えれば、黒い柄と刃が彼の望み通りに伸びてくれる。
しかも影だから、重さなんてまったく感じねぇ。
車を高速道路に導く標識と同じぐらいでかくした大鎌を、両手できゅっと握り締める。

「うおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおらぁぁぁぁああああああああああ!!」

さっきの侮りは影を潜め、尻尾を鞭のように撓(しな)らせて襲ってくる黒龍を、遠慮なく刃を翻して縦方向にぶつ切りにしまくった。
セルティの大鎌はとても切れ味が良い。
うねる体と影の攻撃も、動体視力が抜群に良い静雄にとって、所詮ウドの大木だ。
小さい体なのも幸いし、全て避けつつ大鎌でざくざくに切る事ができた。
異形の体に刃物が入れば、どす黒い血飛沫を撒き散らしつつ肉片が大地にぼたぼたと落ち、生臭い匂いに、自然眉を顰める。

「みかろ、だいじょうぶか?」

振り返れば、桜色の着物を纏った少女も、今はどす黒い血で真っ黒に染め上げられていて。
だが空に浮かび圧倒されそうだった巨竜が、胴体をどんどん輪切りにされて失っていく姿を目の当たりにし。
嗚咽を零して震えていた帝人も、ようやく希望の光を見出してくれたようだ。

「……頑張って……、頑張ってしずおくん!!……」

鯉の泳ぐ池で腰まで水に漬かったまま、今現在できる精一杯で声援を贈ってくれる。
ここで応えられなけりゃ、男じゃねぇ!!

「………、うぉぉぉぉぉぉぉらぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!」


勢い良く鎌を振りかぶって、とうとう首を切断してやった。
だが頭だけになった竜は、静雄と帝人めがけて急降下で喰らいついてきやがる。
彼はとんっと大地を蹴ると、大きく背を反らし、拳を振り上げて黒竜の眉間に一発撃ち込んだ。


≪グギャアァァァァァ≫


断末魔の唸り声を上げつつ、大きな口が静雄にがっきりと喰らいついてきた。

「きゃあああああああ、しずおくん!!」

帝人の絶叫が聞こえるが、噛まれた当人は余裕だった。
なんせ至近距離から突き立てられた刃物すら、五ミリしか体にめり込まない強靭な肉体を持つ静雄だ。
逆に敵の牙が折れた。
しかも黒竜の口内は……臭ぇ!!

(ああああああああああ、てめぇ、いい加減鬱陶しい!!)

口の中から、頭上の上骨めがけて拳を一発くれてやる。
唾液で気持ち悪かったが、骨が砕けた確かな手ごたえを感じた。
二発三発四発と、次々と口内の骨を砕きまくると、顎がガタガタになったのか、噛み締める力が緩む。
彼はその機会を逃さなかった。


「うおらぁぁぁぁああああああ!!」

口をこじ開け外にあったセルティの大鎌の柄を引っ掴む。そして勢い良く舌のど真ん中めがけ、それを大地に串刺しにした。

≪グギャァァァァ≫

舌と顎の骨を貫き、地面に縫いとめられ、逃げられなくなった龍の上口をがしっと引っ掴む。
それを両手で力任せに反対方向に引っ張った。
めりめりと骨が折れ、筋肉がぷつぷつと断ち切れる嫌な音が鳴り、漆黒の血しぶきが辺りを汚しまくる。
口から真っ二つに顔面を裂かれ、生きられる爬虫類などいる訳がない。
黒竜も例外ではなかった。
頭が上下に綺麗に裂き終った瞬間、とうとうぴくりとも動かなくなりやがった。
ざまぁ。

≪……礼を言う、平和島静雄殿……。これからも帝人を頼む、さらば……!!≫

突如、視界一杯を真っ白い鱗が覆いつくした。
と同時に、暖かで凄烈な光も彼の側を駆け抜けて行く。

(……あ……、今の婆か?……)
昨夜の宣言通り、黒龍と一緒に黄泉路を辿る為、旅立ってしまったらしい。
白龍の残滓が静雄の体からきれいさっぱり消えた途端、あれだけ闊達に動き回れていた体が、どんっと重くなった。
どうやら白龍の婆の力も、静雄に加勢していてくれていたようだ。
疲労困憊でとろとろと落ちていく瞼の誘惑に、幼い体は抵抗できなくて。

「……しずおくん!!……」

帝人がぎゅっと抱きしめてくれる中、静雄の意識はブラックアウトした。



作品名:座敷童子の静雄君 1 作家名:みかる