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座敷童子の静雄君 1

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座敷童子の静雄君 5




夜の池袋を、脇目も振らずに静雄はつっ走った。
現在の時刻は21時。

手の平で石を握り、水に漬ければ、帝人が≪しずおくん?≫と確かに呼んでくれていた。
けれど其処までであれからどうあがいたって、ペンダントは全く光ってくれなくて、ただ空しく時間だけが過ぎていってしまい。
静雄の耳に届く帝人の声も、段々焦りの色が滲んできて、そのうち悲壮で切羽詰った叫び声へと変貌を遂げてきやがる。
聞いているこっちがもう気が狂いそうだった。

となると、彼は即断即実行な男な上、人一倍野生の勘が働く。
静雄自身もう自己解決は無理だと諦め、たった一つ思い浮かんだ可能性に賭け、速攻家から飛び出したのだ。

(ああ、早くあっちへ戻らねぇと!! 帝人が、帝人がぁぁぁぁぁ!!)

なのにこの切羽詰っている最中、態々静雄の進行方向から向かってきた馬鹿4人が、にやにやしながら横に広がり行く道を塞ぎやがる。

この不景気に加え、静雄は今一人な上、トレードマークのバーテン服でもない。
細身のただの優男がジョギングしてやがると思い込み、ちょいと言いがかりをつけた上カツ上げしようとする、セコイ小遣い稼ぎのカラーギャングだろう。
いつもの姿な時は、人を見つけた途端脱兎で逃げていく癖に、黒のスエット上下姿になったら、今度は絡んできやがって。

ああ、邪魔臭ぇ。
こいつらと付き合ってやる余分な時間なんて一秒たりともねぇのによぉぉぉぉ。
うぜぇうぜぇうぜぇ。

案の定、避けてすり抜けたつもりだったのに、どかっと誰かの肩と接触したらしい。
弾き飛ばされた男が、もんどりうって地面に転がるが、当たり屋の都合なんぞに構っている暇なんてねぇ。
構わず走り抜けようとすると、薄紫色のスーツを着た金髪オールバックのチンピラ風な男が、がしっと静雄の肩を引っ掴んできやがった。
どうやらこいつがリーダー格らしい。

「おい、てめぇ。俺のダチにぶつかっておいて、侘びもナシか。ああ?」
「邪魔だうぜぇ!! 用があんなら昼間にしろ!!」

裏拳一発だけ、顔面に叩き込んだだけなのに飛んでった奴は、インナーが黄色いTシャツだった。
徒党を組んでたやつらも、バンダナやら何かしら身に黄色い物を纏っている。
くっそう、黄巾賊どもめ。

「法螺田さん!!」
「おい、鼻が折れてる……救急車!!」
「てめぇ、こんな真似してよくも……」

背後から聞こえる男達の怨嗟の声を振り切り、走って走って走りまくって、彼がまっしぐらに向かった先は、小学生の頃から付き合いのある闇医者の家だ。
エレベーターから飛び出した後、呼び鈴鳴らすのもノックの時間も惜しみ、玄関扉を一気にぶち破った。

「セルティ、俺を助けてくれ!! お前が妖精なら、何か飛んでいく方法ぐらいあんだろ?」

丁度キッチンにて、新羅のちょっと遅い夕食を盛り付けていた彼女は、吹っ飛んだ玄関扉に、驚きのあまりどんぶりを落としてしまった。
「うわぁぁぁぁ、セルティの手料理がぁぁぁぁ!!」
掃除が行き届いた木製フローリングに散った味噌ラーメンを、這いつくばって惜しむ新羅のメガネの向こう側の目に、こんもり涙が溜まっている。
が、今の自分には関係ねぇ。
がしっとそのまま背後から白衣の襟を引っ掴み、猫の子を吊るすように持ち上げた。

「お前も、俺より遥かに頭いいんだから考えろ!! なぁ、俺はどうすりゃあっちの世界に飛べるんだ? マジで早くしねぇと、帝人が、帝人がぁぁぁぁ!!」

『ドア、玄関のドアが!? ああああああ!!』
「セルティの手料理ぃぃぃぃぃぃ!! ふぅぅぅぅ、もうどぉうしてくれるんだ、静雄の馬鹿馬鹿馬鹿ぁ!!」


おろおろと慌てふためき、剥がれたドアに駆け寄ってオロオロする首なしライダーに、静雄の胸板に涙ぐんでぽかぽかと猫パンチを繰り出す白衣の闇医者。
駄目だこの馬鹿ップル。
こいつらが最後の頼みの綱だったのに、役に立たねぇ。
泣いている新羅をぽいっとセルティに向かって放り投げると、襟首から黒スエットの中を弄り、蒼いペンダントを引っ張り出した。
石をぎゅっと握り締めると、帝人の声がダイレクトに脳裏に響いてくる。



「しず…く……、きゃあああああああああああ!! いやぁ、いや、いやいやいや…助けてしずおくん!!」

彼女の切羽詰った声に、静雄自身がもう涙目だ。
帝人が助けを求めているのに。
今泣いているのに。
聞こえているのに、なんでなんでなんで。
ギリギリと歯軋りして堪えたが駄目で、悔しくて悔しくて、涙がとうとう頬を伝って転がり落ちた。

「なんでそっちへいけないんだよぉぉぉぉ、みぃぃかぁぁぁどぉぉぉぉぉ!!」
「静雄、ねぇ何がなんだか全く判らないんだけど?」
とうとう悔し涙を流し始めた静雄の形相に、新羅がまず先に我に帰った。
続いてセルティも、項垂れてぽたぽたと涙を零す静雄の肩を、労わるように優しく抱く。

『判る範囲でいいから、お前もちゃんと説明しろ。今のままじゃ、私たちはお前を助けたくても手段すら思いつかないぞ』

突きつけられたPADを読み終えた後、やっと自分もちょっとだけ落ち着きを取り戻した。
「呪われてる女の子がいて、そいつ14の誕生日に魔物に喰われちまうんだ。俺、風呂入ってたら急にこのペンダントが光って、その子ん所に飛んで、ずっと守って戦ってたんだ。後一匹、最後の親玉さえぶっ倒せば、そいつは助かるのに、俺、なんかしらねぇけど、顔洗ってたらこっち帰ってきちまって。………いけねぇんだ……、水一杯かぶって頑張ったのに、全然いけねぇ……」

セルティが手を静雄に重ねると、急いでPDAに何か入力し、新羅に突きつけた。

『新羅も手を貸せ、聞こえる、女の子が本当に静雄を呼んでる!!』
慌てて闇医者も、更にセルティの上に己の手の平を重ねた。

「……ふぅん、どうやら静雄の言う、嘘みたいな話は、現実に起こってる出来事のようだね。それに君が水を媒介に飛んだのは確定だ。セルティ、鍋か何か、なるべく大きい奴に水を張ってくれないか?」
『判った』
直ぐにキッチンの洗い桶に水を張り、テーブルのど真ん中にドンと置く。
新羅がその中央に静雄のペンダントを浸してみた。
やっぱり光りはしなかったが、水面が僅かに揺れた後、いきなり鮮やかな別世界の風景を映し出した。


「ああ、水鏡になったよ。やっぱりこの石も、何かの呪具なのかな?」
そんな事、知るか。
静雄は息を呑んで、じっと帝人の姿を探し続けた。
涙を拭って目を凝らしても、ちんまりした14歳の少女の姿は見当たらない。
畜生、何処にいやがんだ、おい!!

婆は相変わらず、縁側で背を丸めて座布団の上にちんまり座っていた。
春の霞んだ青空を覆うように具現化した黒く禍々しい巨大な生物を、蒼い双眸でしっかと睨みあげている。
でけぇ。

「顔だけで三メートル、胴体全部含めれば全長二十メートルってとこか。静雄、いくら君でも獲物無しじゃ一呑みじゃない?」
「知るか!! それより帝人は? 帝人はどこだ?」
『ここにいるの違うか? ほら、彫り物の背中部分に着物姿の女の子が張り付いている』

セルティの黒い指先が示す方向を、目で追いかけた。
作品名:座敷童子の静雄君 1 作家名:みかる