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座敷童子の静雄君 1

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座敷童子の静雄君 after1




あれから一週間が経ったのに。
静雄は全く帰れなくなっていた。


(ばばぁぁぁぁぁぁ!! 何でだよぉぉぉぉぉ!!)


潤滑にしゃべれないストレスもあり、『海に向かって【馬鹿野郎!!】』と叫ぶノリで、心の中で罵声を浴びせてみたが、勿論気が晴れる訳もなく。
今日もチビのままな体を持て余しつつ、これまた帝人に見つからないように鯉の泳ぐ池にぽっちゃりつかり、勝手に拝借した帝人の手鏡を水の中にしつこく浸しているのに、胸のペンダントは全く光る兆しすらみせなくて。

(俺、やり遂げたじゃねーか!! 帝人助けたじゃねーか!! くっそう、新羅、セルティ!! 俺の声、届いてんなら助けてくれぇぇぇ!!)

「しずおく~ん、春の水はまだ冷たいでしょ?水遊びはめっ……、ですからね♪」

長い板の間の廊下を、お抹茶と桜餅を載せたお盆を両手に持って帝人がやって来た。
彼女は春休みに突入した為、今は一日中静雄と一緒にいてくれる。

今日の彼女は、華やかで美しい桜色の着物姿に割烹着といういでたちだ。
女性は和装すると五割り増しで美人に見えるというが、日頃池袋で【取立ての用心棒】などというヤクザな商売をしている殺伐とした己の目に、彼女は欲目抜きで本当に清らかで眩しく映る。
ぼうっと見蕩れていたら、いつの間にか草履を履き、ほてほてと池の前までやってきた。かと思ったら、濡れている小さい体を、そのままひょいっと抱き上げられてしまった。
手鏡を勝手に持ち出していた事も勿論バレたのに、優しい彼女は何一つ気がつかないふりして何も聞いてこない。

「さ、着替えたらおやつにしましょうね♪」

板の間の廊下にぽすんと降ろされた後、泥混じりに濡れた藍色の着流しと下着を剥ぎ取られ、静雄一人が素っ裸にされ、お湯で絞った暖かい手ぬぐいとバスタオルでごしごしと体を拭われた。
(真っ昼間からどんな羞恥プレイだ)
子供体型な上、やった相手が彼女でなければ、きっと暴れている。

清潔な紺色の絣(かすり)を着せてもらった後は、帝人にお膝抱っこして貰いつつ、庭を眺めながらもぐもぐと桜餅を頬ばった。
ぽかぽかと暖かい春の陽だまりの中、二人で日向ぼっこしつつ、抹茶を頂く静かな時間は、何て贅沢なのだろう。
本当にここは、現代日本か?
(これでタバコが吸えりゃ、もう最高なのによぉぉぉぉ)

「……ふふふ、しずおくんのお陰で、大分綺麗になりましたねぇ……。ありがとうございます♪」
「……世辞……は、いらな……い」

と言いつつも、自分自身、耳までかぁぁぁぁっと赤くなったのが判る。
赤面性かと疑いたくなるぐらい、照れ屋な己の顔が憎いし、素直に喜べない性格も嫌いだ。
これだから褒められ慣れてない奴は困るのだ。
可愛くない口を利いてしまったのを後悔し、恐る恐る帝人の顔をちらりと見上げて機嫌を伺えば、彼女はニコニコ笑って頭を撫でてくれる。

「ずうっとずうっと一緒ですから。しずおくんはずうっと私の所に居てくださいね♪」

と言いながら、彼女はささっと手鏡を割烹着のポケットに隠してしまった。
帝人の癖に、何て素早い。
こんなに熱心に引き止められるのも初めての経験だし、本心から嬉しいが、静雄にだって譲れない事情があった。
マジで早く池袋に戻らないと。
無断欠勤が重なれば、折角トムさんが誘ってくれた、債権回収業のボディガードという職を失う羽目になる。

(ああああああ、せめて時間が二年もずれてなければ、連絡できるのによぉ、畜生!!)
しかし頭を抱えて愚痴ったって、どうにもできないのだから仕方が無い。時間の無駄だ。


「……続き……、やろ……」
「はい。頑張りましょうね♪」
「お前、重いの……、持つな。俺……、やる……」
「はい♪」

帝人の膝からぽんっと降り、とてとてと庭に戻った。
今日は緑や灰色の岩苔を、禿げた大岩にせっせと二人で塗りたくるのが仕事だ。

盛大に壊しまくった庭も、何とか見られるように片付けようにも、純和風日本庭園は手ごわい。
業者を入れたいが、ばばぁはもうここに居ねぇし、帝人はまだ中2で、万単位の家の金を、親の不在時に勝手に動かせる筈もなく。
現状、毎日帝人とせっせと泥遊びまがいの修復作業をしている。
何とか元に近い姿を取り戻しつつあるが、所詮は子供二人の素人仕事だから、どっか歪で見た感じも不細工だった。

「……なぁみかろ、ばばぁのこと、親に……、ろ(ど)うい、…う?……」
「帰って来た時、普通に【1000年経ったから、逝きました】って話します。でもしずおくん、私の命が危なかった事、どうか両親には内緒にしてくださいね」
「なん…で?」
「もう済んだ事なんですから、心配かけたくないじゃないですか♪」
顔は笑っているのに、妙に悲しげな違和感を感じた。
(なんでこいつ、親に甘えねぇんだ?)
14歳で一人娘の筈なのに、態度や考え方の端々で、親に対する遠慮というか壁を感じる。
ちゃんと理由を聞いてみたいのに、饒舌に動かない口のせいで儘ならない自分自身が憎い。


今日も日がとっぷり暮れる頃には、二人揃って泥だらけになってしまった。
夕飯前に帝人とお風呂へ行くのが、この所の習慣で。


「はい静雄くん、ざっぱーんしますから目を瞑ってください♪」

丁寧に洗われた上、泡まみれになった体を、お湯をかけて綺麗に洗い流してくれるのだ。いくら自分でやれると身振り手振りで訴えても、彼女は全く聞いてくれない上、直ぐに己の膝に静雄を乗せようとするものだから、目のやり場に思いっきり困るし、柔らかい体も凶悪。
なのに、天然鈍感少女は一切気にしてくれない。
ここで幼い体が反応したら堪らない。勿論【変態扱い】間違いない。
お陰でお風呂タイムは至福だけれど、拷問に等しい一時でもあった。

(……あ、手鏡……)

ヒノキの棚に、タオルの影に隠れている例の手鏡を見つけた。
素早く手に取って洗面器のお湯に突っ込むが、やっぱりペンダントは光らなく項垂れる。
そんな自分を見ていた帝人が、寂しそうに吐息を零した。

「ねぇ、しずおくんは、そんなに私の所から消えたいのですか?」
眉毛を八の字にし、泣きそうになってしまった彼女に、静雄は慌ててぷるぷると首を横に振った。

「親、………帰ってくると、……、みかろに迷惑………」
「変な遠慮は辞めてください。私はしずおくんが今ここに居てくれて本当に嬉しいんですから」

彼女は静雄を抱き上げ、抱っこしたまま湯船に漬かると、彼を膝の上に乗せ、その胸にぶら下がった大粒のペンダントをそっと撫であげた。


「しずおくん知ってました? これって、お婆ちゃんの血が固まった石なんですよ」
「は?」
「ふふふふ、正確にはお婆ちゃんの血に霊力を練り混ぜた物なんですって。人間に嫁ぐ時、長い寿命と巨大な霊力を捨てなきゃならなくなって。でも勿体無いし、何か悪い事が起こった時に利用できるようにって、あっちこっちの大地に霊力ばら撒いて隠した、そのうちの一つなんですって。長い年月眠っていた石が、巡り巡ってしずおくんの手に渡ったなんて、何か運命感じませんか?」
「……血……なら、赤い、……何で蒼……?」
作品名:座敷童子の静雄君 1 作家名:みかる