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座敷童子の静雄君 1

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座敷童子の静雄君 2




もしてめぇが、ラピュタみたいなペンダントが急に光って、知らねぇ風呂で溺れ、すっぽんぽんな美少女に抱き上げられたら幼児になっていたとしたら、どう思う?
どんなメルヘンだよ、っていうか、ふざけやがってやりやがった奴ブッ殺す……って、なるだろ普通?


(……あー、何か変な夢見ちまった……、欲求不満溜まってんのかなぁ、俺………、珍しい……)


誰にも言えないが、実は平和島静雄は、23歳にもなって未だ童貞だ。
心配したトムが、風俗に色々と連れまわしてくれた時期もあったが、元々の性欲も余り無く、『体で商売する女性をもし最中に壊してしまったら、責任なんて取れねぇ』という恐怖から、結局のらりくらりと逃げ出した結果、今まで清い体を保って来た訳だ。

新羅曰く、女を欲しがる熱が、そのまま常人離れした喧嘩で発散されてしまうから、普通の成人男子に比べて淡白なのだそうだ。
嘘か真かはさておき、今まで不自由に感じた事は無いが、起きたばかりなのにこんなに全裸美少女の夢ごときで疲労困憊しているなら、欲求不満もかなり切羽詰っているかもしれない。

(……そういやこの頃ノミ蟲野郎をボコってねーし。仕方ねぇ……、帰り新宿寄ってくか……、面倒くせぇなぁ…)

かしかしと寝癖ぼさぼさな髪を掻きつつ身を起こすが、まだ夢うつつで目が開けられない。
仕方なく、いつものように寝起きのタバコを一服吸おうとサイドボードに手を伸ばした。
なんせ静雄は結構寝汚い。
時間を確認せずに二度寝の惰眠を貪れば、遅刻しトムに迷惑をかける恐れがある。
メンソール入りの煙でも燻らせれば、その内脳味噌もシャキっとするだろう。

だが、紙箱とライターを探しても、指が触れた感触は木目板じゃなくて。
つるんとした独特のボコボコ感、そしてい草のとてもよい緑の香りがする。
平和島家にある筈ない畳だった。

(なんだこりゃぁぁぁぁ!!)

がばりと上布団をはだけて立ち上がると、室内は見知らぬ8畳の純和室だった。
青緑色の土壁、水墨画風の襖、細木で丁寧に雪の結晶が組まれた飾り細工の障子、それに床の間に飾られた山水画な掛け軸や、二つに割った青竹に、すらりと美しい水仙の花が生けられた青磁の花器……等、どれもこれもが調和し、居心地良くしっくり合っていて、骨董を見る目なんて全く持ち合わせていない静雄にだって、センスの良さが判る。

TV等の家電も、時計も、箪笥やテーブルや棚等、生活感あるものが一切無い所を見ると、どうやらここは客間らしい。
でもこんな場所、自分は知らない。
こくりと息を呑み、もう一度まじまじ自分の手のひらを見る。
寝巻き代わりに着せられていた紺色の浴衣の袖から覗くそれは、ぷくぷくと肉付がよくてとても小さく、やっぱり幼児のままで。
夢ではなかったのだ。


(……俺、一体どうなっちまうんだ……)


幼子の体は、大人より遥かに涙腺が弱い。
目頭が勝手にジワリと熱くなったかと思ったら、みるみる目の淵一杯に水滴が溜まってしまう。

(何泣いているんだよ俺、みっともねぇ)

これでも男の意地がある。絶対泣くものかと歯を食いしばり、顔を天井に向けた。
そんな時、ぱたぱたと軽やかに駆けてくる足音が、ぴっちり閉ざされた障子の向こう側から聞こえてきた。


「……お婆ちゃんただいま、ねぇ座敷童子さまは?……」
「さっき覗いたら、まだぐっすりお休み中だったよ」
「じゃあ買ってきたお供え物、冷蔵庫に入れておいた方がいい?」
「そうだねぇ、生菓子だからねぇ」

(供物って、俺は地蔵かよぉぉぉぉぉぉぉ!?)

発想が貧困な上、彼はとてもメンタルが弱かった。
人間扱いして貰えないショックは、実は彼にとって一番過酷なダメージだ。
幼い頃から、怪力の化け物だというトラウマがあり、それが今ストライクどんぴしゃで引っかかってしまった。
「…う……、ぐぅ……、ううううう……」
ぎゅうっと握り拳を作って堪えても、嗚咽が毀れ、とうとう目の淵から涙も溢れだし、ぽろぽろ零れてしまう。

「……え?…どうしました童子さま?…」
(……うっ…!!)

いつの間にか、音一つ無く障子が開いていた。
昨日の美少女は紺色の清楚なセーラー服姿で、お盆を手に佇んでいて。
彼女はすぐさまぱたぱたと彼の元に駆け寄ってきた。

「大丈夫ですか?」

膝をついた彼女は直ぐに静雄を抱え、己の膝の上にのせると抱きしめ、よしよしと背中を撫でてくれた。
またもやむぎゅっと、ささやかな膨らみだが、正真正銘異性の胸に顔を押し当てられ、涙と嗚咽が引っ込んだ。
なんせ静雄は23年間、今まで一度も女と付き合ったことが無い。
そんな初心な彼に、貧しくとも少女の乳なんて、頬が勝手に真っ赤に染まった。
(ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! 離せ、離しやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!)

「あれ、もしかしてお熱あります? お風呂で溺れたし……風邪ですか? 気持ち悪かったりしますか?」
「……ち、ちげぇ……」
慌てて首をぶんぶん横に振ったら、タイミング良く、大きく腹が鳴った。
少女は一瞬きょとりんと、あの青く大きな目をまん丸にさせたけど、直ぐに優しく微笑んだ。

「お腹空きましたよね、申し訳ございません。昨夜からずっと眠ってて、朝と昼、食べ損ねてしまいましたもの。童子様、おはぎはお好きですか?」
甘い物は好物だ。それに自覚したら空腹感が襲ってきやがって、無性に食べたくなった。
真っ赤い顔で項垂れつつ、こっくり頷くと、少女は畳みに置いていた木彫りのお盆を手繰り寄せた。

その上には、あんこと黄な粉のおはぎが丁度五つずつ乗ったガラスの菓子器と、茶托付の緑茶があり。
「はい、どうぞ」
と木のちっちゃな切れ端で、彼女は素早く取り皿にあんこを一つ載せ小さく切ると、にこにこと楊枝と一緒に差し出してくれた。

きっと幼い静雄に気を使い、食べやすい大きさにしてくれたのだろうが、彼女の膝に乗ったままなのが恥ずかしい。
相手は慈愛に満ちた目をした、打算とかが一切無さげな純真な少女だ。
膝から降りようとしても、傾いだ彼の体をずり落ちそうになったと勘違いし、きゅっと再び抱きしめ直してくる始末である。

「童子さま、今度は黄な粉を切りますか? それとももう一度あんこにします?」
「……きな…こ……」
「はい♪」
結局彼女に世話を焼いて貰い、もぐもぐ食べる羽目になった。
黄な粉には黒蜜もかかっていて、無茶苦茶甘いが旨い。
やや温めの緑茶も、渋みが少なくとても旨い。

「……おれ、……しずお……」

食べながら『俺の名前は平和島静雄だ』と、自己紹介したかったのに、舌足らずな幼い口は、全然自分の思うとおりに動いてくれなくて。

「……わらし……ぇ、しずお……」

『座敷童子なんかじゃねぇ、静雄だ』と言いたいのに、必死で搾り出してもこれだけしか告げられないのだ。
もどかしい。

「童子さまは『しずお』さまって言うんですね」
ぷるぷると首を横に振る。
「……さま、い……ら……、いや……」
大した人間じゃねーのに、『様』付けなんて柄かよ、うぜぇ。
「じゃあ『しずお』君ですね。私は竜ヶ峰帝人っていいます。ご挨拶が遅れて申し訳ございません」
作品名:座敷童子の静雄君 1 作家名:みかる