二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

座敷童子の静雄君 1

INDEX|5ページ/12ページ|

次のページ前のページ
 

座敷童子の静雄君 3




(ちぃぃぃぃ、うぜぇうぜぇうぜぇぇぇぇぇぇ!!)
あれから静雄は見事に、帝人を庇いながら次々と襲い来る影蛇を撃退した。

彼女には傷一つつけなかったが、被害は甚大だ。
なんせ広大で静謐な美を保っていた日本庭園が、現在石灯篭は粉砕され、樹齢何百年の巨木は倒れ、苔むした岩はあっちこっちに投げつけられ、大地に見るも無残なクレーターを大量にこしらえてしまっていて。
池袋の無機質で血の通っていないビル群などと、訳が違う。
なんせ長い年月、ひっそり命を繋いできた生命あふるる日本庭なのだ。田舎暮らしに憧れている彼だからこそ、己が壊してしまった美しい物達をより惜しんだ。


静雄はちらりと、縁側で座布団の上にちんまり座る、帝人の祖母を見上げた。


「……鯉…のいる池だけは、避けた……。木はスマン……、今から植えなおしたら生き残るか?」
今までと打って変わり、言いたい事がするっと口から出てきやがり、静雄自身もびっくりだ。

「童子さまは帝人を守ってくださった。庭なんぞ気になさらずとも、ええ」
「黒蛇の奴ら、しつけぇな」
「ご安心くだされ。これで13匹、帝人の年と同じ数をお仕留めなさったから、もう手下の攻撃はのうなった筈で」
「ばぁさん、何で判るんだ?」
「代々竜ヶ峰の家に伝わる古文書に、詳細が書かれております故」

老婆は懐から小さな紫の古臭い巻物を取り出し、ゆっくりと丁寧に縁側に広げた。
好意はありがたいが、生憎、ミミズがのた打ち回っているようなぐにゃぐにゃな筆文字なんて全く読めない。

「後は明日の帝人の誕生日に来る、黒い竜の襲撃を乗り切れば、あの娘は助かるのです。どうか童子さま、帝人をお守りくだされ」
「何であの娘が襲われるんだ? 大体黒い竜って何だ?」
「それは、お話すると長くなるのですが」
「手っ取り早く、簡潔に言え」
「その前に童子さまに伺いたいのですが、帝人は何処に行きました?」

言われてみて気がついた。
影蛇をボコボコにしていた時には、ずっと背後にいた筈なのに、今は忽然と姿を消している。

「まさか、浚われた!?」
「いえ、それはありえねぇだ。残る襲撃は明日のみだし、……、もしかして家の中ですかねぇ?」

といいつつも、婆は広げた巻物に手をついたまま、立ち上がる素振りも見せない。
イラっと来たが、直ぐに己の勘違いに気がついた。
彼女は両手をついて一生懸命床を押し、立とうと頑張っているのにできないだけだった。

「いい、ばぁさん。俺が見て来る」

家に飛び込み、とたとた走り回る。
平屋一階建てなのにやたらと広い上、知らない家だから探し回るのも一苦労で。
でも帝人は台所にいた。
四人がけテーブルの足元に床に両足をぺったりつけていて。

(何してんだ? 隠れているのか?)
ひょいと覗き込み、「もう大丈夫だ」と言いかけた静雄は凍りついた。

彼女は包丁の柄を両手で掴み、不穏な目で刃を凝視し、やがて意を決して、首筋にぴたりと当てやがったのだ。

「……みかろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
(何してやがる、この馬鹿女!!)

紅葉サイズの小さな己の手を必死で伸ばし、帝人が持つ包丁に掴みかかった。

「……化け物に食べられるの、嫌……、怖い、怖い怖い怖い怖い………」
「おれ……まもる、だいじょう……ぶ……」
「無理です!! 童子さまちっちゃいもん。子分にあんなに手こずってるのに、親玉に勝てる訳がない。戦ったらきっと……、やられちゃう。もういい、もういいから……、逃げて……。私の巻き添えになるなんて……、駄目……、ゴメンね、ゴメンね……」

(……ちきしょう、錯乱してやがる……!!)

明日やっと14歳になる少女には、確かに酷な話だ。
静雄が不甲斐ないばかりに、明日襲ってくるだろう影蛇より怖いだろう親玉に怯え、恐怖に潰されそうになってしまったのだろう。
迫り来る最悪の食い殺される死より、手っ取り早く逃げる為、包丁を自分の喉に突き立てようとしやがるなんて。
せめて、こんなチビじゃなければ。
【池袋最強】【自動喧嘩人形】と言われた自分なら、どんな化け物でもぶっ倒してやる自信なんて、いくらでもあったのに。

「じじい、ばばあ!! ロープ!!」

腕を捻って包丁を剥ぎ取り、帝人を床に押さえ込んだ。
けれどチビで軽いから、背中に馬乗りになって押さえつけても、半狂乱になって暴れる彼女を拘束し続けるのはできなくて。
必死で叫んだのに、援軍はきやがらねぇ。

(ああ、無理か。あいつら座布団から降りるのだって、しんどそうだったもんな)
ちんまり座っていた老人達二人の姿を脳裏に思い出し、もうため息しかでない。
(悪い、帝人)
静雄は仕方なく、後首への手刀一撃で気絶させたのだ。


☆★☆★☆


深夜、桜色の浴衣を着た帝人の腕をすり抜け、静雄はむくりと起き上がった。
護衛とお守り代わりの為、延々帝人の抱き枕になっていた為、肩が凝って仕方がねぇ。
月明かりの元、ぐっすり眠り込んだ帝人の顔を覗き込めば、目元は散々泣き濡れたお陰で浮腫み、折角の美少女がとても痛々しい。


「なぁばばあ、俺、訳わかんねぇんだけど?」
帝人が眠りこけている途端、滑りが良くなった口にもむかつく。

「お前、『人』じゃねーだろ。それがなんで帝人の祖母やってんだよ? 大体こいつの本物の身内、どーなってんだ?」

帝人が寝かせられた布団の側に、障子を背にし、紫色した座布団の上、置物のようにちんまりと背を丸めて座る一対の老夫婦がいる。

けれど爺の方は完全に等身大の木彫りの像に、服を着せただけの代物で。
その隣に座るしわくちゃ婆は、姿が透けていやがる癖に、にこにこと笑みを崩さず、一人だけ美味そうに緑茶を啜っている。
今まで静雄を騙してくれやがった幻覚を解き、堂々と開き直ってる上、この期に及んでの緊張感の無さ、マジでむかつく。


「なんで帝人が襲われんだ? なんで俺が呼ばれたんだ? なんで俺はチビになってんだ、ああ?」
『その娘の母親は、ネットとかいう道具を使った懸賞で【欧州二週間の旅】二名様ご招待を引き当て、喜々として娘をわしの所に預け、旦那と一緒に旅立った』
「てめぇが仕掛けたんじゃねーのか?」
『ああ、ちょいと邪魔だったんでなぁ』
ふてぶてしいババァだ。
だが、禍々しい雰囲気はねぇし、帝人の事も気にかけてるし、家に特賞級の当たりをもたらす能力もあるのなら、悪霊の類ではないのが救いだ。


「で、あんた結局何者だ?」
『【竜ヶ峰】の始祖に嫁ぎ、守り手となった者さ。まぁ千年も昔の事だがなぁ』

という事は、帝人の遥か昔の先祖か。
しわくちゃな顔を上げた老婆を、その全身を包むように何かが蠢いた。
目を凝らしてよく見れば、着物のすそから伸びているのは純白に輝く鱗まみれの長い胴体で。
静雄はこくりと息を呑む。

「あんた、白蛇の化身か?」

自分の怪力に目覚め、近場にあったありとあらゆる神社に参拝し、賽銭箱になけなしの小遣いをはたいて投げ入れまくっていたあの小学校当時。

――――――実は自分は鬼の子孫で、先祖返りなのではないだろうか?――――――
作品名:座敷童子の静雄君 1 作家名:みかる