座敷童子の静雄君 1
そう疑った彼は、当時から【物の怪】とか【アヤカシ】に、興味深々だった新羅を巻き込み、馬鹿なりに図書館に通って必死で調べまくった事があった。
その結果、知ったのだ。
日本のあちこちに根付く民話や風土記には、多々異種族と人間の交わりが記されていて、その中でも特に蛇女と人の交配話は、掃いて捨てる程あり。
現代でも頻繁に能や昔話や映画で使われる題材……「安珍・清姫伝説」のような、蛇女に好かれ、終いには殺された美僧侶の話なんかは、その代表だと言えるだろう。
ずっとにこにこと目尻を下げていた婆の目が開き、真正面から静雄を捕らえた。
「蛇ではない、老いたがこれでも神に仕えた白竜の化身でのう」
蒼く、深みのある神秘的な美しい双眸。
それは帝人の大きな瞳と、全く同じ色だった。
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白蛇より、位が上な竜が人間に嫁いだともなれば、その家の繁栄は、約束されたも同然だ。
山に木を切りに行けば、そのまま金鉱を見つけ、川に釣りに行けば、宝玉を見つけ、畑を耕せば、其処だけ豊作は間違い無しとくる。
幸運に恵まれまくった【竜ヶ峰】の家は、単なる貧乏農家だったのに栄えに栄え、ついに一代でその土地の大地主にまで成り上がった。
となると、やっぱりやっかみは生まれるもの。
昔の農民仲間から、物凄い嫉妬と恨みを買い捲った。
また、白竜には一方的に言い寄る青竜がいたのだが、そいつを袖にして人間なんぞに嫁いでしまったものだから、誇り高い竜の自尊心は粉々となった。
そして人間を恨んで憎んで、あっと言う間に神獣は魔に堕ち、漆黒の闇竜へと変貌した。
元々村に蔓延していた妬みや怨念は、闇竜の助力が加わり増長し、彼の眷属……つまり邪念を持つ黒蛇へと成長し、竜に命じられるまま、田畑を荒らし、水を枯渇させ、散々な嫌がらせをしてきやがり、その行いは数十年にも渡って延々と竜ヶ峰家を苦しめた。
しかも人に嫁した白竜が天寿をまっとうして亡くなった後、黒竜は呪いを鎮めたければ、自分に娘を差し出せと言ってきやがったのだ。
作品名:座敷童子の静雄君 1 作家名:みかる