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座敷童子の静雄君 1

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座敷童子の静雄君 4




「で、今まで【生贄】にされた娘は、どれだけいるんだ?」
『実は竜ヶ峰家の本家筋にはおらん』
顎がカクンと落ちそうになった。
呆れて開いた口がふさがらねぇ。

「ばばぁ、てめぇふざけてんのか? ならなんで帝人は喰われるって怯えてたんだ?」
『人の話は最後まできちんと聞け。代わりに分家の女子や貧しい村娘が金子と引き換えに、この家の養女に引き取られ、身代わりで大勢喰い殺されておるわ。どれもこれも決まって青い眼の娘が本家に生まれ、14の年になった時にな』
「あー、そういうことか。納得」


自分の娘を守る為、堂々と多額の金を積んで身代わりの少女を見殺しにする大地主なんて、村民の信頼もへったくれもなさそうだけど、昔ならアリだ。


残酷な話だが、この国は大昔、寺社を建立する時や、また日照りや豪雨や地震等の天災に見舞われると、直ぐに人柱とか言って生きている人間をそのまま地中に埋めたり、底なし沼に童を捧げますとか言って突き落としたり等、人間の命を平気で供物に捧げている。

それに、例えば日本古来の妖怪に『一つ目小僧』と言う有名なのがいる。
小坊主の格好をした一つ目で長い舌を出し、一本足に下駄を履き、けんけんしながら追いかけてきて、やんちゃなイタズラを村人に仕掛ける非常に元気の良い妖怪なのだが、これの原型はなんと、村に何かあった時真っ先に生贄に使う為、片目を潰して足を一本切り落とし、絶対逃げられないようにされ、飼われていた哀れな童達だった。


昔なら簡単に手に入った人命。
だがこの現代に、身代わりの生贄なんて揃えられる訳がねぇ。
下手すりゃ猟奇殺人事件になり、全国ネットでトップニュースになる。


「で、俺が呼ばれた訳か。でも何で俺だったんだ?」
『この世で黒竜を退治できそうな最たる者を求めたら、そなたが来た』
「そりゃ買いかぶってくれてありがとよ。けど何で俺、チビなんだ? 化け物と戦うのなら、成長してた方がいいんじゃねーの?」
『すまぬ、死した身では最早力が足りなかったのでな。ここはそなたの生きる時代より、ほんの少しだがズレておっての。時空を移動させるのは大変なんじゃ』
「ふーん、どれぐらい?」
『約二年じゃ』

ばばぁはゆっくりした動作で、急須と新たな湯のみを取り出すと、自分と静雄用に緑茶を注いでくれた。
幽霊が美味そうに飲んでいたものなど、果たして自分も口がつけられるかちょっと不安が頭に過ぎったが、一口口に含んで直ぐに無駄な心配だった事を悟った。

「……うめぇな、これ……」
深蒸された茶葉だったのだろう。豊かな香りと舌にちょっと走る渋みが何とも言えない。
『これも美味いぞ。ここらじゃ評判の店での。帝人が昨日そなたの為に買ってきたお供え物だが、どうだ。食うか?』
「おう」

茶色い饅頭を頬張ると、一個丸ごと栗の甘露煮が入っていて、チビな口では随分食べ出がある。
むぐむぐ甘い白餡を堪能し、お茶を飲み干した後、ちょっと気になる事を尋ねてみた。

「俺、黒竜に勝てんのか?」
『そなたで駄目なら、この世の誰にも帝人を救えぬわ』
「おいおい。俺が負けちまったらそいつ、喰われちまうんだろ?」
『その時は私が、帝人の手を引き共に黄泉路を一緒に辿ってやる。絶対一人では逝かせぬよ』
「そっか」

婆の飄々とした態度は、ふざけてんのかてめぇ……と、少々イラっときた事もあったが、それはもうなるようになれと、覚悟を決めたからだろう。
己の命の保障だってあるかどうかも判らないデスゲームに、一方的に巻き込まれておいて何だが、静雄自身にももう、一人だけ逃げるという選択肢は無かった。

もし帝人の事を見捨てれば、体もこのままな上、きっと元の時代にも戻して貰えそうに無い。
それに普段、下手に強制や束縛されれば、直ぐに『うぜぇ』と切れて暴れる自分だが、優しく自分を膝に乗せ、おはぎを食べさせてくれた哀れな少女を見殺しにするなんて、きっとできやしない。


『不憫な子だ。私の血も随分と薄まって、ここ400年、蒼い瞳の娘は一人も生まれて来なかったのに』
「そりゃとんでもねぇ先祖返りだったな」
『今年で丁度1000年の節目だし、闇竜にもそろそろ救いが必要だろうて』
「……きっちり引導を渡してやれって事か?……」
『ああ』

自分にとって、種族的に格が下だと思ってた人間なんぞに最愛の女を盗られて、その子孫の娘達まで憎悪の対象にするなんて。
しかももう1000年。
「筋金入りのしつこいストーカーだぜ。何か急所とか弱点はねぇのか? 武器も…そう、刀とか竹槍とか標識とか」


婆はしわしわの口で、お茶を啜った
『私達は幼馴染だった。生まれた時から一番近くにいて、弟のように可愛がった』
「おい、ばばぁ。俺の質問聞いてたか?」
『恋情にも気づいておったが、どうしても異性として見てやる事ができず愛せなかった。せめて私が長い命を捨て、100年と生きられぬ人になど嫁さなければ、あやつも狂って魔に堕ちる事は無かったかもな』


今度は何も言わなかった。
諦めたってのもあるが、婆さんの独白が、なんか切なくなってしまったのだ。
静雄が改めて念押ししてやらなくたって、とっくに老女の中では答えが出ている筈。

きっと、静雄がそいつを無事に殺してやれれば、婆はその闇竜の手を引き、一緒に黄泉路を辿ってやるのだろう。
どっちに転んでも、明日、竜ヶ峰の家を、必死で守ってきた白竜は消える。
となると、この白竜の老女にとって、この世で最後の夜でもある。
1000年という長い月日だった分、色々と感慨深いものがある筈で、結局静雄はお人よしな上、野暮ではなかった。


振り返って、すぴすぴと寝息を立てて眠っている帝人を眺め見る。
腹が甘いもので満たされ、ちょっと気が緩んだが、今日一日ずっと禁煙だったのがキツイ。
(あー、一服吸いてぇ)

「なぁ婆さん、タバコ持ってねぇ?」
『キセルなら』
「それでいい、くれ」
『生憎、葉が無いがいいか?』
「いいわけねぇだろババァ、意味ねぇじゃねーか!!」

怒鳴った途端、帝人が「んんんんん……」と声を発し、寝ぼけた目をこしこしと擦り始めやがった。
やべぇ。
折角ババァが薬か何かを盛り、無理やり寝かしつけたらしいのに。
だが中々思うように目は開かなくて、そのうち布団の中で、帝人が手をぱたぱた動かし始めた。

「……しずおくん、しずおくん、……しずおくん? 何処ですか!?」
「あー、ここ……、いる」
「しずおくん!!」
彼女はがばりと飛び起きたが涙目になっていて。
静雄を見つけた途端、ほっと表情が安堵に緩んだ。


「……えっと……、くう? うまい……ぞ……」

帝人を泣かせると、何かしらねぇが、胸がチクチク痛くなる。
黒い彼女の頭を撫でてやってから、余っていた饅頭を一つ差し出してみたが、逆に腕を取られ、むぎゅっと胸に抱きしめられて。

「お婆ちゃん、お休みなさい」

そしてごそごそと布団に再び潜り込んだかと思ったら、直ぐにすぴすぴと寝息を立てて眠ってしまった。
本気でこいつ、俺を抱き枕か睡眠薬代わりだと思っていやがる。

あっけに取られたが、何か嬉しい。
作品名:座敷童子の静雄君 1 作家名:みかる