こらぼでほすと 闖入9
このメンバーで、こんなほのぼのした遊びはしたことがない。悟空がはしゃぎまくっているので、悟浄も、それに水を差す真似はしない。三蔵と乗りたい、と、いうなら乗ってやれ、と、視線で伝えれば、ふう、と、溜め息をひとつついて坊主も歩き出す。そうねだられたら、断れないのは先代、当代の保護者で変らないところだ。
もう一箇所、と、親猫が案内したのは植物園だった。これから、アフリカあたりに出向くなら、予習にもなるだろうと熱帯地方の草花があるところを選んだ。特区内の近場だったが、例の如く、アッシーがついてきている。トダカーズラブを引き連れたトダカだ。キラとアスランも行きたがったのだが、警備の問題があるから却下された。こういう公共の場は、貸切にでもしないと、危険すぎるからだ。
「私たちは、私たちで散策するから、好きに廻ってくるといい。二時間後にエントランスで集合だ。」
トダカがエントランスで、そう言って親子猫を放牧すると、マップ片手に親子猫は温室のほうへ歩いていく。それを見送って、こちらも別の温室へ移動する。なぜ、ウィークデーに、かなりの人数が集まっているのか、その理由は、その温室にあった。そちらには、キサカと数人のキサカーズラブの面々が待っていたからだ。時候の挨拶をすると、そこにセッティングされている椅子に座り込む。この温室は、元々がカフェテラスとして使用されているので、椅子やテーブルがあるし、ウィークデーで、そのカフェテラス自体は休んでいて、密談するには好都合だったからだ。
「何かと不穏な動きが見られるので、お話をしたくて参りました。」
「キサカくん、もう年寄りに意見は求めなくてもいいんじゃないのかい? 」
「誰が年寄りなんですか? トダカさん。」
「だって、私には娘も孫もいるんだよ? 立派な年寄りだろう。」
冗談のようにトダカは言うが、キサカも、トダカーズラブの会報は目にしているから、それが誰を指しているのか理解している。
「その娘さんやお孫さんのためにも、お聞きいただいたほうがよろしいかと思います。」
「ん? そちらのこともあるのかい。・・・・それじゃあ、仕方ないね。」
組織のことも話に含まれていると言外に示されると、トダカも聞くつもりになる。それでは、と、簡易のディスプレイが用意されて、現在のオーヴの動向の説明を受ける。トダカーズラブも、そこで起立して聞いている。
「昨今、周辺海域に、アローズの艦隊が出没しているのですが、一種のデモンストレーションのようです。これが、その映像ですが・・・・・最新鋭のMAとMSが艦上に見受けられ、明らかに威嚇目的であると思われます。」
小型ディスプレイに映し出されるのは、偵察機から映されたものだ。至近距離ではないが、かなりの望遠を駆使しているので艦が個別にはっきりと捉えられていた。
「これ、人革連のものだね。」
「ええ、アスランくんから送られたデータにあったものですが、それの改良版だと思われます。」
刹那が人革連の奥地で撮影してきた殺略大会の映像にあったものが、そこにある。つまり正式採用になったということだ。それらが、オーヴの境界ギリギリに展開されているのだ。威圧しているつもりだろう。ただし、こちらには入っては来ない。なにせ、そこはキラが護る国だ。不敗神話のある「白い悪魔」が背後に控えているのは判っているから、仕掛けては来ないが、それも時間の問題かもしれない。
「・・・・この話、カガリ様は? 」
「まだ報告は上げておりません。まず、トダカさんのご意見をお聞きしたいと思いましたので。」
「キラ様に報告は? 」
「そちらもしておりませんが、把握はされていると思います。」
ラボのサーバーは一国家が所有するクラスの大容量のものだ。常時、こちらに関係のある情報は検索させているから、そこには昇っているだろう、と、キサカも予想している。ただ、キサカから話をするよりは、トダカに動いてもらうほうが、オーヴとしても有り難いので、密談を催した。
「周辺に機雷でもバラまいておけばどうだい? うちのシグナルを発しているものは接触しても爆発しないタイプのがあっただろ? 」
「やはり、そうですか。うちから艦隊は派遣しないほうがいいだろう、と、私も考えてはいたのですが。」
「潜水艇で十分だ。どうせ、あちらさんは難癖をつけたいのだから、見て見ぬフリにしておけばいい。私から、キラ様にお知らせして、対処していただく。オーヴを叩けば、魑魅魍魎が噴出するのだと、あちらに知らせてやればいい。」
オーヴ本国が動けば、敵対行為と見做される。そうならないためには、陰からキラたちに動いてもらうほうが得策だ。その依頼なのは、トダカも理解しているから、了承のため頷く。
「そうしていただけると有り難い。そして、もうひとつが・・・・クサナギのことなのです。宇宙での演習地域のことで抗議がありました。おそらく、こちらが組織へ関与している疑いを持たれているのではないかと思われるので、しばらくはクサナギは動かせません。組織とは気付かれているのではないのでしょうが、何かしら周辺に偵察機が飛び回り始めました。」
「・・・そちらは、そろそろ没交渉にするべきだ。」
「ですが、まだ、カガリ様は物資の提供を望んでおられ・・・」
「組織が存続していることを知られないためには、そうするほうがいい。その説明は、きみができるだろ? キサカくん。」
オーヴは、組織が再始動できるまでの技術提供と物資補給を約束していた。カガリにしても、組織の必要性は考えたからだ。だが、それも、バレては元も子もない。オーヴの機体が使えないなら、他も手はある。
「ええ、私が諫言すべきことです。」
「提供予定だったものは、残っているのか? 」
「次回の演習時に、と、考えていたものが丸々。」
「軌道エレベーター経由でコンテナというところかな。」
「そんなところでしょうね。または、プラントへコンテナごと民間船で運ばせるという手も考えられる。」
「あとは、エターナルか。・・・・次のメンテナンスの時に運搬させる。」
「問題のないものは軌道エレベーター経由で徐々に送らせるように手配します。」
提供する物資は、何もMS関連ばかりではない。ありふれた部品や計器関係ならプラントへの輸出ということで徐々に送れる。技術的にハイレベルな部品や機材はエターナルに運搬させれば、オーヴは動く必要はない。オーヴが表立ってできないことは、『吉祥富貴』の担当だ。その打ち合わせだから、トダカが代表で出て来ている。こちらも、刹那たちの組織の再始動と連動して動く予定が建っている。オーヴから、それに必要な物資も補給することになっている。その資料もキサカは携えてくれている。これらも、エターナルで宇宙へ運ぶ予定だ。
「来年くらいにあちらのMSはロールアウトする予定だ。来春までに、オーヴも物資の確保はしておくほうがいいだろう。」
「本国は静観する予定で動いております。」
「もちろんだ。今度の連合は参加する意味などない。中立の立場で臨まれるように、カガリ様をお諌めしてくれ。」
作品名:こらぼでほすと 闖入9 作家名:篠義