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Our Song

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 暗記ものを勉強するときいつもそうするように、何か音楽でも聴きながら取り組んだほうがいいのかもしれない。鞄の中に入っているはずのプレーヤーをごそごそと探したら、イヤホンのコードが白滝のようにぐちゃぐちゃと絡み合っていて、そのまま持ち上げるとハンペンみたいな本体が釣れた。
 オレの鞄の中はおでん鍋か。白滝を懸命にほぐしつつ、水谷はそんなことを思ってしまった。
 ようやく好きな曲を聴きつつ暗唱を始めた水谷だったが、どうにもこうにも気分が乗らない。腹が空いて集中できないのかもしれない。うーん、と衰弱したうめきを出し、鞄を枕にしてプレーヤーをいじる。今すぐテンションを上げたくて、そんな気分にさせてくれるような曲を探そうとする。
 円盤を滑っていた指先がふと止まり、水谷はその文字をひとつひとつじっくりと眺めた。ディスプレイへ映し出されているのは栄口が何度も聞いていた、あの曲名だった。
 あれ以来どうなったかというと、今まで二人の間に存在していた壁が薄いプラスチックだったとしたら、それが硬い鉄板へ強化されてしまった感じだった。栄口は表面上は普通に接してくれるが、態度にも言葉にも心を探られたくないという意識が滲み出ているような気がした。相変わらずのイヤホンも主張のひとつなのだろう。馬鹿な水谷でもそう察することができた。
 関係ないとまで言われたときはすごくびっくりした。多少ムカついたし、言い返してへこませてやりたい気持ちもあった。でもどうしてなのか、次第に水谷の中へ悲しみだけが満ちてきて、全てのことがどうでもよくなってしまった。だからもう、尚もイヤホンをし続ける栄口へ諦めしか抱いていない。まだ嫌なことは嫌なのだが、だって自分は『関係ない』のなら仕方ない。
 じゃあ誰なら関係あるのだろう。オレ以外の、もっと信用のおける人物へなら栄口はイヤホンをし続ける理由を話すのかもしれない。とりあえず水谷は野球部の面々を思い出した。類は友を呼ぶのか、栄口の周りはどいつもこいつもしっかりしている奴ばかりいて、だらしのない自分が異質に思えた。
 エナメルの鞄へめりめりと頭が埋まっていく。早朝からずっと練習していたから、枕を得ただけでとても眠くなる。台本の文字はぼんやりと霞み、マーカーの蛍光ピンクが残像を伴っておかしいくらい上下に伸びている。身体は既にその機能を半分以上停止し、すぐにでも眠りにつける態勢に入っているのに、頭だけが通常営業で意味のない考え事をし続けている。

作品名:Our Song 作家名:さはら