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Our Song

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 栄口への恋愛感情を自覚した水谷だったけれど、それで何が変わったかというと何も変化はなかった。もっと暇なら悶々と自分の不幸さについて悩んでいたかもしれないが、今は部活もあるわ文化祭の準備もあるわで、おちおち立ち止まって考えてもいられない。
 だから水谷にできることは栄口の姿を見かける都度、心の中で「好きだなあ」と実感するくらいだった。それはとても幸せで、でも次に出てくるのは大抵溜息だった。
 文化祭というお祭り騒ぎが終わったら、オレは一体どんなふうになってしまうのだろう。水谷は少し不安になる。もっと辛くなるのだろうか。
 七組の教室内も運び出す机が二段に積み上げられ、半分以上のスペースが空けられていた。各々の机が片付けられているから、先に来ていた生徒たちは皆壁際に寄りかかって談笑していた。中に入るなり戸口にいた女子の一人から声をかけられる。
「水谷、革靴持ってきた?」
「持ってきたよ」
 右手を軽く上げて示すと、女子生徒は「よし!」と犬を躾けるかのように肯定してくれた。
「あと衣装、あれにマントつけるから」
「マントぉ? んなの要るの?」
「あったほうがそれっぽく見えるらしいよ」
 そう女子は笑うのだが、水谷としてはこれ以上衣装の仮装度を上げたくなかった。ただでさえ中世コスプレもどきなのに、マントなんかつけたらますますおかしくならないだろうか。
 思わず「嫌だなあ」と表情に出してしまったら、「水谷今超嫌だって思ったでしょ」と女子から指摘された。
 なんとも分が悪くて困っていると、視線を泳がせた廊下に栄口が立っていた。
「あっ、さっ、栄口!」
「はよ。これ花井に渡してくんない?」
 そう言って栄口は紙を一枚寄こしてきた。食品扱うとこの責任者、今日最後の集まりだって、と軽く説明を受ける。
「そうそう巣山さぁ、なんであんなに劇でへこんでるわけ?」
「ん? 劇?」
「さっき会ったんだけど超テンション低いの」
 ああ、と思い当たった栄口が声を出す。昨日衣装を合わせてみたら巣山は本当に僧侶のようで、クラス中から絶賛されたらしい。
「まぁ坊主が坊主に似てるって言われてもあんまり嬉しくないよなぁ」
「それだけであんなに落ち込むかな」
「あー、あとその坊主が肩にオウムを乗せて竪琴弾くってのが嫌なのかも」
「ええっ、なんでそんな変な」
「そういう劇なんだよ」
 オウムに竪琴。自分の想像する坊主はせいぜい木魚と数珠しか持っていない。水谷は混乱し、巣山の気持ちがちょっとだけわかった。よりパワーアップした見世物になるのが憂鬱なのだ。
「じゃ、それよろしくな」
 栄口は感じよく笑い、踵を返して一組のほうへと廊下を歩いていった。
 『関係ない』とまで言い切った相手へ普通に接してくれる栄口は立派だ、と水谷は思った。間に鉄板を入れたいくらいだろうになあ。多分自分はものすごく嫌われていないけど、あまり好かれてもいないのだろう。

作品名:Our Song 作家名:さはら