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Our Song

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 いよいよこれまでの努力を発表する前夜祭が訪れた。劇は一年一組から順に上演される。一年生から一クラス、二年生から二クラス、三年生から三クラスというふうに投票で選出され、文化祭当日に発表する、らしい。今年初めての試みとあってどうも裏方の手際が良くなく、最初の一組の劇は十分遅れで始まった。
 水谷はあれほど嫌がっていた巣山の役がどんなものか気になっていたが、どんなに話が進んでも一向にその姿を見せない。物語も終盤の雰囲気が漂い出し、もしやボイコットでもしたのだろうかと不安になると、突然弦を弾く高い音がした。
 栄口の言ったとおり、肩に鳥のぬいぐるみを乗せ、竪琴もどきを手にした巣山がステージ端へ現れた。全てを諦めきった表情とぼろぼろの僧衣が合わさって、本当の僧侶のようだった。
 話の流れからしてここは感動のシーンなのだが、水谷を含め野球部の連中は笑いを堪えるのに必死だった。
「すっ、巣山、解脱してる……あの顔!」
「悟り開いてる! 絶対悟り開いてる!」
 水谷と花井は小声で言い合い、あの阿部ですら口を横に引いて爆笑するまいと必死だった。ポロロン、と流れる竪琴の効果音がまたいけない。笑いを誘われる。
 巣山は他の生徒から必死に役の名前を呼ばれていたが、何も言わず、竪琴を弾く真似をしながら去っていった。なるほど、台詞がないけど嫌がる気持ちが良くわかる。ハマりすぎている。あの役に巣山を抜擢した一組はすごい。
 次の二組の劇が終わったら、七組も準備するために一旦教室へと戻る。一組の廊下の前には人だかりができていて、巣山がみんなから写メを撮られていた。発表が終わったら吹っ切れてしまったらしく、巣山は気丈に応じている。
「おっ、水谷、頑張れよー!」
 なんて、前日の相手からは予想もできない明るい声に驚いてしまった。オレもこれが終わったらあんな清々しい顔になれるのだろうか。今はまだわからない。
 衣装に着替えを済ませて教室へ戻ろうとしたら、同じように準備に引き上げてきた九組の連中と出くわした。泉がふてぶてしく、「水谷ってそういうカッコ似合うな」と笑う。図星なのでむかついた。
「今何組まで終わった?」
 そう尋ねると泉は「四組かな」と教えてくれた。
「水谷そのマントどうなってんの?」田島が裾を引く。
「これ安全ピンで留めてんだ」
「ある意味すげーな」
「あんまり引っ張るとたぶん裂ける」
 おお、と驚いて田島は手を離した。
「まぁせいぜい失敗すんなよ」
「ガーっと行け!」
 そう励まされても緊張で言葉が心へ響いてこない。同じ立場の誰かに助けてもらいたくて七組へ入ったけれど、どいつもこいつも顔が強張っていて、とても頼れるような雰囲気じゃなかった。

作品名:Our Song 作家名:さはら