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Our Song

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 そんな栄口が頻繁にイヤホンをするようになった時期をはっきりとは覚えていない。しかし自分の貸したアルバムを聴いているはずだから、そのあとからであることは確かだろう。
 イヤホンを片方もらって耳を傾けると、予想通り聞き覚えのあるメロディが流れている。水谷は次の曲のほうが好きだったので楽しみに待っていたが、続けて流れた曲はまた同じものだった。栄口はある一曲だけを繰り返し聴いている。
「あれ? またこれ?」
「あー、リピートしてんの」
「飽きない?」
「飽きるまで聴こうと思って」
「そんなにこの曲好き?」
「好きってわけじゃないんだけど……」
 好きでもない曲を飽きるまで聴き続ける栄口がわからない。水谷にとっては軽い拷問に思える。
「オレは次の曲のほうが好きだなぁ」
「あーそういう感じする」
「わかるわかる?」
 嬉しくなって笑いかけたら、机を挟んで向かい側にいる栄口がぎこちなく目線を逸した。
 そのとき水谷は今までに感じたことの無い疎外感を覚えてしまった。
 それからも栄口はイヤホンをし続け、何を聴いているのかと尋ねるとわかりきっているタイトルを口にする。水谷は感心してしまった。自分なら一日も持たない。
 問題はその栄口が全然楽しそうじゃないということだった。曲自体は普通のラブソングで、陰鬱な気分になってしまうものでは決してないのに、教室で頬杖をつく、朝に通学路で会う、どの場面でもイヤホンをした栄口の様子は暗く、なんとなく話しかけづらい雰囲気が漂っていた。
 そういう状態が一週間も続くと、水谷もその姿を見るだけであの曲を聴いていると見分けられるようになった。
「……あれ聴いてたの?」
「うん」
 そしてその予想は外れていないのだった。
 だから水谷は栄口と関わるのを控えた。前みたいに頻繁に一組へ行かなくなったし、積極的に話しかけたりもしなくなった。そもそもイヤホンするということは外界から隔離されたいのではないだろうか。どんなかたちで接しようとも自分は実体のあるものであり、ひとりで音楽を聴きたがっている栄口の邪魔に思えた。少し様子がおかしいのが気がかりだったが、栄口が選び、実行していることを見守るべきだと考えた。たとえテンションがドラマでよく見かける死人の心電図のようにどこまでも平坦であっても。
 水谷がバドミントンに熱中するようになったのはそう判断した前後だった。昼休みを一組で過ごせなくなったからバドミントンをするようになったのか、昼休みにバドミントンがしたいから一組へ行かなくなったのか、どっちが先か覚えてないのだが、とてもどうでもいいので深く考えたりはしなかった。というかそのことについて考え始めるとみぞおちのあたりがずっしり重くなる。どうしてなのか、なんて自分でもわからない。
 なぜ栄口が好きでもない曲を延々聴き続けているのか、という理由を知れずにいるから、こんなふうにもやもやするのだろうか。でも今さら質問するのも微妙な感じがするし、多分、なんとなく、思い違いかもしれないけど、と、くどい前置きを付け加えるけれども、自分なんかが易々と尋ねてはいけないような気がするのだ。そこまでオレと栄口は仲良くない、と。
 栄口はマゾだ。もしくは修行好きに違いない。水谷の結論は変なところへ不時着した。

作品名:Our Song 作家名:さはら