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Our Song

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 はたはたとシャツの首元から空気を送り、中に篭った熱を逃す。水谷は額にじわりと汗をかいているのを確認した。あちらこちらへ翻弄され、走りまくったせいで身体が熱い。通常なら予鈴が鳴るまで遊んでいたが、今日は水谷があっさり負けたせいで七組内バドミントンクラブはいつもより早く教室へ戻ることにした。
「ついにバド王が倒された」
「バド王って何」
「つかバド王ってオレなわけ?」
「水谷以外誰だと思ってんだよ」
 階段に響く笑い声で、バド王なるあだ名が自分へ宛てられていると、理解を強要されてしまったのが悔しい。反論しようにも仲間たちは次の授業の話をし始めてしまった。昼休みのあとの英語は眠い。英語の教師はすぐ当ててくるから嫌い。水谷も仲間の会話に相槌を打ちながら階段を上り終える。
 踊り場の角を曲がるとすぐに一組の教室がある。水谷の中で立ち込めていた黒い渦が再度その色を濃くした。まだ聴いてんのかな。そんな言葉が苛立ちとともに浮かび、自分でも驚いてしまった。栄口が何をしたってそれは本人の自由だし、いちいち不機嫌になる理由なんてないのに、どうしてか最近の水谷は暴力的だった。
 だったらわざわざ確かめなければいいのだが、歩きながらも水谷は栄口を見つけてしまった。一組の戸口から見えたのは一瞬だったけれど、さっきと同じようにイヤホンをして頬杖をついている人がいたから、あれは間違いなく栄口なのだろう。
 嫌だな、と感じてしまったらもう止まらない。あっという間にその黒い感情から身体中染められて、自分でも信じられないくらい悪意のこもった声が出た。
「……おもしろくない」
「え? 何?」
 水谷がいきなり変な言葉を口走ったから、クラスメイトが不審そうに尋ねてくる。
「あっ、英語! 英語の話!」
「ああ、さっきのな」
「お前話題がひとつ遅れてんだよ」
「つか話聞いてないだろ」
 小突かれつつ笑われ、なんとかその場を収めると、黒いものが居場所なく心の中へ戻っていく。
 馬鹿みたいだ、オレってなんて自己中なんだろ。水谷は恥じた。神様でも仏様でもこのさい誰でもいいからこの変な心を直してくれないだろうか。
 教室へ戻り席に着いてすぐ、午後の授業のチャイムが鳴った。
 水谷は眠くてつまらないなりにも英語へ取り組んでいたが、ふとした違和感にシャーペンを握る右手を見る。人差し指にささくれができていることを確認し、何の気なしにその部分を引っ張って剥いでしまったら、しばらくあとで熱を持ってずきずきと痛み出した。まるでさっきの黒さが未だ指先に残り、忘れるなと自分へ訴えかけているみたいだった。
 イヤホンなんかしないで欲しいのにな。
 人差し指の赤い縦線を見る。水谷の本音はそれだった。

作品名:Our Song 作家名:さはら