Our Song
すべての劇を見終わると、一年生のそれなんて正直インパクト勝負で、演技もセットも三年生にはとても適わないことを知る。投票の結果、一年生の代表は一組に決定した。
自分たちも良く頑張ったと思うのだが、何も喋らないのに全てを語っているような巣山が印象的で、水谷も一組へ投票してしまったくらいだったから、それは当然の結果に思えた。
とにかくこれで心配事が一つ減った。明日はポップコーンを売り、クラスの手伝いをするだけでいいと気づくと自然に身体が軽くなる。文化祭を楽しむという余裕がようやく出てきた。
しかし巣山だけは違っていた。まさか一組が文化祭当日も劇をやるなんて予想していなかったのだろう。ぬか喜びというやつだろうか。劇が終わった直後はあんなに晴れ晴れとしていたのに、今は昨日よりもどんよりと腐っている。
野球部員たちは劇の巣山をものすごく賞賛したのだが、どうも原因は別のところにあるらしかった。
「うちの親に会っても絶対劇のことは言うなよ!」
なんとも巣山らしい回答で笑ってしまった。でも自分が同じ立場だったらきっと巣山と同じことを言っていたに違いない。
水谷がいない間にポップコーンの味は塩に決定していたのが少し悔しいけれど、模擬店の看板や値段表を作っているとなんだか楽しくなってくる。
飾り付けの折り紙を切りつつ、水谷は看板に書かれているウサギの絵が誰のものなのか気になりだした。ピンク色をしたかわいいウサギが「おいしいよ!」とフキダシを出している。こんなファンシーな絵を描けるやつなんてこの部にいるのだろうか。少し気味が悪い。
「それは花井が描いた」
さらりと阿部が言ってのけたので水谷は面食らってしまった。
「あいつ意外と絵うまいんだよな」
「そういえばウスの絵もうまかった」
「ウスって何だ」
「モチをつく道具らしい」
しばらく考えていた阿部だったが、ああ、と思い当たったようで、すぐに紙の花を作る作業を再開した。
「妹がいるからなのかもな」
「あー、お兄ちゃんこれ描いてー、みたいな」
「オレも妹いるけど絵下手だよ」
そう言ったのは西広で、長く伸ばしたガムテープをびりびりと破いている。
「じゃあ花井の隠れた才能なのかもな」
「おだててどんどん描かそうぜ」
「そうだな、空いてるスペース寂しいし」
野球部内でそんな密談が交わされたのを「遅れてすまん」と会議室へ入ってきた花井は知る由も無い。ひどい話である。
あれよあれよと担ぎ上げられ、キャプテンは看板へ対となるウサギもう一匹、下を覆う模造紙へネコ三匹、書かされる羽目になっていた。とはいえそのおかげで大分作業は進み、あとは明日の朝これらを取り付けるだけでよくなり、とりあえず部での準備は終了した。
花井と阿部はこれからポップコーンの機械を借りに行くと言い、他の部員は帰る者もいれば、教室へ戻ってまた準備をする者もいた。水谷もとりあえず鞄を取りに七組へ向かった。