Our Song
その星の微かな明かりも壁の色に馴染んで消えた。プラネタリウムは終了し、戸が開かれたのだった。ありがとうございました、と声がかかり、中にいた人たちの後ろへついて水谷も廊下へ出た。今まで暗いところにいたせいか日の光が眩しくて目がくらむ。
「一組の出し物ってカシコイよなー」
水谷は何でもないふりをして話しかけたが、栄口は浮かない様子だった。何だろう、また自分は栄口の気分が悪くなるような発言をしてしまったのだろうか。
「水谷」
名前を呼ぶ声も普段と違って張りがない。「なに?」と返事をしてその姿を見たけれど、横顔からでもとても悩んでいるのが伺えた。黙って次の言葉を待つ。しかし栄口は続けて何かを喋ろうとはしない。
「ごめん、何でもない」
強張った笑顔でそう言うから、馬鹿な水谷でもそれが嘘だと見抜けてしまった。憤りが胸へこみ上げてくる。無理をしてまで自分に接してくれなくてもいい。
「それさ、何でもなくないよな」
「……」
「何で言ってくんないの」
栄口はまた首を傾け、床をじっと見始める。水谷はそれを拒絶のサインだと受け取った。
「別にいいんだけど、無理に言って欲しくないし」
いつもより少し高い声が出て、自分に余裕が全くないことを知る。風邪で腫れたみたいに喉がとても痛い。
「……でもオレだって傷ついてないわけじゃない」
胸の中の黒い渦から「もっと責めれば楽になる」とそそかされ、水谷は今までずっと思っていたことを言ってしまった。
勝手に勘違いして、勝手に傷ついているのは自分なのに、その責任を栄口へ突きつけ、少しだけすっとした気分になっている。ひどく悲しそうな顔をしている栄口を当然だと思っている。
わずかに開いていた口をぎゅっと閉じ、栄口は黙り込む。その喉が動き、ゆっくりと何かを飲み込んだら、うつむいていた横顔がこちらを向く。目を伏せたまま「ごめん」と言う。
受け止めて欲しくなんかなかった。考えすぎと冗談にされるか、怒って突き放されたほうがまだマシだった。それよりも何よりも、あんなことを言っておきながら、なぜか泣きそうになっている自分が格好悪すぎて消えてしまいたい。
しかし先にいなくなったのは栄口だった。くるりとこちらへ背を向け、早足でどこかへ歩き出す。
その場で呆然と突っ立っていた水谷だったが、廊下を行き来する人から軽く肩をぶつけられたら正気が戻って来た。
取り返しのつかないことをしてしまった。湧き上がる後悔を押し留めたくて息を止めると、ポケットの中の携帯電話が震える。電話かメールか確認するべきだったが、水谷はその振動をそのままにして廊下の端へとしゃがみ込んだ。