Our Song
水谷が七組の前を通りがかると、表向きの占い屋にもわりと人が入っているようだった。そういえば、と思い出し、慌ててさっき撮った一組男子の写真をメールする。危うく忘れるところだった。
しかし裏稼業の写真屋の看板は出ていない。あまり目立つと分が悪いのだろうか、そう詮索していると、水谷に写真係を頼んできた女子が中から出てきた。教室の前にいる水谷へ「おつかれ」と声をかける。
「水谷、あんたの仕事はもう終わりだよん」
「あっ、そっすか」
「かっこいい人いた?」
「オレに聞いてどうすんだよ……」
本気で脱力した水谷をケラケラと笑い飛ばし、女子生徒は戸口の前の机上に置いてある、少し大きめの木箱のフタをつまんだ。中には封筒が二つ入っていた。
「なるほど、お前らも頼んできた人の顔は知らないんだな」
「そういうこと」
木箱の横には同じような茶封筒が置いてある。この中にメールアドレスと写真が欲しい人の名前を書く紙が入っていて、お金も中に同封してもらうから本当に誰だかわからない、と女子生徒は言った。
「メアドで誰かバレないの?」
「調べればわかるかも知んないけど、そこまでしたくないんだよね」
「へぇ、なんで?」
「誰かが誰かを好きってだけで楽しくない?」
「楽しくねーよ」
少なくとも水谷は栄口が自分以外の誰かを好きというだけで不快である。
「あー、ごめん!」
女子生徒は何かを察したようで、目をキョロキョロさせながら言葉を探す。
「でも劇の水谷のことかっこいいって言ってる子いたよ! 二組か三組か四組だったかな……」
そんなふうに変なフォローをされたらますます惨めになってきた。二組か三組か四組ってあやふやすぎる、きっとそんな人はどこにもいやしない。多分この女子は水谷がモテなくて僻んでいると思ったのだろう。余計な誤解を招いてしまった。