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Our Song

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 七組バドミントンクラブは解散した。なぜなら文化祭の準備で体育館に暗幕が張られたからだった。それだけならまだ外で活動し続けたのだが、肝心の道具が無くなってしまった。仲間の一人が推測するに、暗幕を張るときに生徒会がした大掃除で、ステージの隅へ隠していたバドミントン一式も片付けられてしまったのではないか、ということだった。
 水谷はまだバドミントンがしたかったし、その気になればまた道具をちょろまかすこともできたが、どうもそれは空気が読めていないような感じがした。文化祭まであと二週間ともなると、他クラスに比べて協調性のない七組の面々も焦りだし、昼休みにも準備をするようになったからだった。
 放課後は部活で手伝えない水谷は負い目を感じ、何か手伝えることはないかと申し出ると、女子からゼリービーンズが入っているような袋を押し付けられた。残念なことにそれはゼリービーンズではなく、ゴム風船のお徳用詰め合わせだった。この中の風船を色ごとに分別することが水谷の仕事らしい。試しに少しだけ風船を出して色を数えてみるとなんと七色もあり、水谷は軽く気が遠くなった。しかも量がとても多い。こんなにたくさん風船を膨らませて一体何をするのかと問うと、七組の出し物の『占いの館っぽいの』で使うらしい。
 そんなあやふやなのにこんな面倒くさいことする必要ってあるんですかー。
 とは思ったけれど、一度引き受けた手前、水谷は昼休みに黙々と風船を色分けするのだった。
「水谷何やってんの」
「ああっ、泉、手伝って!」
 ちっ、と舌打ちをされたが、泉は水谷の前の席へ座った。そのすぐ傍にいた浜田もなんだなんだと寄ってくる。
「風船を色ごとに分けてるんだ」
 二人の顔が微妙に引きつったのを見て、水谷は「こいつら今絶対『めんどくさ』って思ったな」と察した。
「七組って劇は何やるんだ?」
「へ? 劇?」
「今年から義務化らしいじゃん」
「そんなの今聞いた」
 泉が緑の風船のゾーンへ適当に青の風船を投げたのを直しつつ、水谷は聞き返した。
「なんか去年さー、前夜祭とか当日とか抜け出してサボってた奴がいたんだってよ」
「へー」
「だから今年は各クラスに劇が義務化して、前夜祭で投票して上位が当日どうのこうの」
 せっせと風船を分けていた浜田が顔を上げる。
「九組はすごく話し合った結果『かちかち山』をやることになったんだ……」
「小学生の学芸会かよ!」
「だって全クラスやるんだぞ? 被らないものにしようって話になったら」
「かちかち山に……」
「かちかち山ってどういう話だっけ」
「ウサギと……あとなんだっけ出てくる動物」
「サル?」
「ハチとかウスとか出ないっけ」
「ウスってなんだウスって」
「わかんない」
 三人とも一旦風船を選ぶことを止め、ウスなるものの実体を想像してみるのだが全然イメージが湧いてこなかった。水谷はウスについて、ちょっと変わった模様のウシのような生き物を思い浮かべた。
「とにかくさ、オレは恨むね、去年サボった奴が全部悪いんじゃん、せめて見つかるなっつの」
「まぁなぁ、劇なんて面倒くさいことが増えるだけだよなぁ……」
「もしかしたら浜田、お前じゃねーよな」
 愚痴る泉が横を見遣ると、浜田は赤い風船をつまみつつ硬直してしまった。
「……今日のホームルームで浜田をウスに推薦してやる」
「やめてくれー、ウスとかわけのわからんものに……」
「嫌だね、浜田はウス決定だ」
「ウスって本当何なんだろうなー」
 結局ウスの謎は解明されないまま昼休みは終わった。

作品名:Our Song 作家名:さはら