Our Song
また店が混み始めたから一旦その話は中断したが、少し経ったのち、「まぁどうでもいいんだけど」と泉が独り言をつぶやく。尚も写真の話を続けるということは、泉にとってとてもどうでもよくないのだろう。そんな本心が隠しきれていないので水谷は笑ってしまった。
「何がおかしいんだよ」
「気にしてるなーと思って」
てっきりムキになって言い返してくると予想していたのに、泉の様子は落ち着いていた。
「水谷は気になんないの」
「多少はなるけど」
「つか浜田に二回もあるのに、オレに一回もないってのがおかしい」
「琵琶湖だからじゃないっすか」
「女ドロボウに言われたかねえな」
そんな会話をしているとき、突然女子の声がしたからびっくりしてしまった。なんてことはない、それは見知った七組の女子で、水谷へ「栄口くんって人、ここにはいないの?」と尋ねてきた。
「あと十分くらいしたら当番だから来ると思うけど」
そう、と女子は言い、何か用事があるのか、足早に立ち去って行った。
「あっ! あいつにポップコーン買わせればよかった!」
しまったと悔しがる水谷の横で泉がニヤニヤ笑っている。面白い形のポップコーンでも見つけたのだろうかと不思議に思っていたが、泉は「アレ、あれだよな」と訳の分からないことを言った。
「アレって?」
「七組の写真屋」
頭の中に浮かんだ文字がそのまま声となって出る。
「マジで」
次に押し寄せてきたのはとにかく嫌だという衝動だった。「やだ」と何度も繰り返す自分の声が足の先から頭のてっぺんまで、ぐるぐると高速で駆け巡っている。
「あれ巣山、栄口は?」
「つかお前ら、栄口知らない?」
「同じクラスの巣山が知らなきゃオレらが知ってるわけないじゃん」
泉が答え、まだ坊主の格好をしている巣山が「うーん」と唸った。
「いや、一組にもずっといないんだよな」
「あ、そうなのか」
「次当番だからここ来てると思ったんだけど」
水谷と泉の次は巣山と栄口がポップコーン当番だった。責任感のある栄口が当番をサボるはずがないという巣山の推理は正しい。
「オレ探してくる」
「おい、携帯のほうが……」
泉の提案を最後まで聞かずに水谷は走り出した。