Our Song
「だっ、だって栄口言うだろ?」「何を」「オレが言いたいこと」
立ち入り禁止と書かれた剥がれかけの紙を目にも留めず、がむしゃらにドアノブを掴んでがちゃがちゃと回した。こうすればたまに開くらしいということを噂で聞いていたけれど、まさか今実行するとは水谷も予想していなかった。
手応えは良くない。鍵が掛っているならまだしも、壊れているから埒が明かない。でもどうしても、どんな手を使ってでもここを開けなければならない。
水谷は頭に血が上りすぎて、ドアノブを掴んだままなのにありったけの力で体当たりしてしまった。痛みとともに硬い鉄の戸から跳ね返されると思ったのに、なぜか身体は勢いがついたまま宙へ投げ出された。
ドアが開いたと気づいたのは、べたん、という品の無い音を立てて床へと転がってからだった。
よろよろと立ち上がると、金網の向こうに青く高い空があった。立ち入り禁止の屋上へ一度も忍び込んだことのない水谷にとって、目の前に広がる景色はとても新鮮だった。
しかしそんなことに感動している場合ではない。あと校内ではここしかないと、意を決して乗り込んだのだ。屋上にいなければきっと栄口は何らかの理由で家へ帰ってしまったに違いない。
水谷は前へ歩き出し、辺りをぐるりと見回す。文化祭の喧騒がここでは遠くに聞こえ、校舎を取り巻く景色はうっすらと日の光に照らされて柔らかだった。が、どこにも栄口の姿は見当たらない。
やっぱり帰ってしまったのだろうか。いや、行き違いということもあるし、まだ学校の中を探すべきだ。
諦めきれない水谷はくるりと背を返し、無理矢理押し開けたドアのほうへ戻ろうとした。するとそのすぐ横、こちらからでは死角になっているところに栄口がいた。本当にいた。
体育座りで頭を伏せているその姿は、背を預けているコンクリートの壁と同じくらいのテンションだった。つまりほぼ同化しているのだった。水谷は驚きのあまり「うわっ」と変な声を出してしまった。
恐る恐る歩みを進め、栄口へと近づく。あんなに騒がしく入ってきたのだから、こちらの存在に気づいているはずなのに、栄口はぴくりとも動かない。「拒絶」というタイトルがつけられた石像みたいだった。