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Our Song

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 だったら水谷も栄口のことを考え、さっさとここから立ち去るべきだ。なのに、足首が誰かに強く掴まれているかのように動かなかった。
「あのさ」
 そう声を出したが、次に何を言うかなんて考えられなくて口をつむぐ。水谷は元から口下手だった。大事なことを話すときはいつも緊張して、伝えたいことの半分も喋れない。まず言葉が浮かんでこないし、なんとかその段階をクリアしても、次にその単語を組み合わせることができないのだ。そういう努力の上で発言しても、自分の作った文章は全然格好良くなくて嫌いだった。
 オレは結局どうしたいんだ。水谷は本当に自分が情けなくなりだす。情けなさ過ぎて、奇声をあげて遠くへ走り去ってしまいたい。
 騒がしく鳥の鳴き声がした瞬間、大きな風が屋上に吹きつけ、水谷の髪を乱暴に流した。うなじに居座っていた熱もついでに飛ばされ、頭の中へ冷たい空気が入ってくる。
 水谷には言葉がない。作れもしない。けれどいつも繰り返し聴いていた歌があった。聴いているだけで栄口と繋がっているような、馬鹿みたいな思い込みを信じていた。
 すっと息を吸い、最初から歌ってみる。元のボーカルとも自分の理想ともかけ離れているその声が辺りに響く。
 声を出すことでだんだん正気が戻ってきて、水谷はサビに差し掛かる前に歌うのを止めた。ものすごく恥ずかしいことをしてしまったという実感が顔を赤くさせる。何なんだオレは。死にたい。栄口にしてみれば、目の前で水谷がいきなり知っている歌を口ずさみ始めたのだ。頭がおかしくなったと思われたかもしれない。
 もうイヤだ、と首を垂れようとした途中で栄口と目が合った。うあっ、と調子はずれな声を出して水谷は驚く。あれだけ頑固に顔を上げてくれなかった栄口がこちらを見ていたのだ。
「あ、あの栄口」
「……」
「オレもこの曲何度も聴いたんだ」
「うん」
「そんで、栄口のこと考えてた」
 やっぱりダメだ。自分の言葉で何か喋ろうとするとこのザマだ。オレは何が喋りたいんだ何を伝えたいんだ。

作品名:Our Song 作家名:さはら