Our Song
どこかの窓から舞い上がったひとつの風船が上へ上へと昇っていく。中庭ではたくさんの人が行き交っていたが、おそらくその風船にも、屋上にいる自分たちにも、気づいている者はいない。栄口の目線が風船を追い、それにつられて水谷も上を向いた。
「オレは水谷のことを考えてるときの自分が嫌いなんだ」
「えっ、なんで?」
「性格悪いことばっかり考えつくから」
具体的にどんなことか栄口は語らなかったが、それは水谷も一緒だった。栄口のことを考えると自分の心がどんどん狭くなっていく。イヤホンもそうだし、今日の写真のことについてもそうだった。相手がどうかより、自分の利害ばかりを優先してしまうのは、栄口が言う、「性格悪い」に該当している気がした。
「あとなんか自分が気持ち悪い」
「それオレもそうだから気にすんなよ」
「あの曲にしてもさ、何度も聴いて、自分と重ね合わせて」
「オレも」
「だから水谷からイヤホン外せって言われたとき、全部ばれてるって勘違いして、つい「関係ない」って言って」
風船は遠くへ行き過ぎて、その色が青に馴染んで見えなくなってしまった。隣の栄口もその様子を眺めながら話していたが、水谷が同じものを見ていると知っているのか、風船のことを口に出したりはしなかった。
「でもここ、来てくれてありがとう」
「えっ、別に、オレ、その……」
「水谷、オレは」
さすがの水谷でも次に言われるであろう単語を察し、「わー!」と叫んで栄口の口を手で覆った。真剣な顔つきだった栄口が、みるみるうちに不機嫌になったのを水谷は至近距離で捉えた。けれど塞いだ口から手を放したら、栄口は絶対言う。言われたらますます格好悪くなってしまいそうで、水谷はとにかく必死だった。