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Our Song

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 しかし水谷はウスのことが気になり、ようやく劇の題目を決めることになったホームルーム中、花井へ尋ねてみた。ただでさえ他のクラスより取り掛かりが遅いのに、どんな劇をやるのかということで会議は二転三転している。
「ウスっていうのはあれだろ、餅をつく道具」
「えっ! 不思議なウシじゃないんだ!」
 呆れた様子の花井がプリントの裏へくびれた筒状のものと小さいトンカチをさらさらと描く。
「これがウス。で、ここに餅入れてぺったんぺったん……」
「はー、なるほどなー、浜田は劇でこれやるのかー」
「あれ? 九組はかちかち山やるんじゃなかったっけ?」
「かちかち山ってウス出ないの?」
 花井のげんなりとした表情を見るなり、水谷はかちかち山にウスなんて役はないことを確信した。
「かちかち山はウサギとタヌキだろ」
「ウスは?」
「サルとカニが出てくるやつ」
 そんな会話をしていると、いつの間にか七組の劇は見慣れないカタカナの題目をやることに決定していた。黒板に役の名前が書かれているのを見るに、おそらくそれらも今決めてしまうのだろう。
 自薦はいないかとクラス長が声を高くする。名乗り出る者は誰もいない。続いて他薦を尋ねると、静まり返っていたクラスの中がざわざわと騒ぎ出す。どっちにしろ水谷には関係のない話だった。部活のある自分はその対象から除外されているだろうし、劇なんて小学校でも中学校でも関わったことがない。
「花井、野球部ではなんかやんの?」
「ポップコーンでひと儲けする算段」
「えー、ポップコーンなんて儲かるかぁ?」
「それが原価聞いてオレもびっくりしたんだよな」
 ウスの絵の横に花井が数字を書き、簡単な掛け算をする。想像していたより多い売り上げ予想に水谷はわくわくしてきてしまった。
「ひとつ二百円で売っても、この程度で新しいボールが一セット買える」
「うおっ、スゲー……」
「さらにコネでレンタル料はタダ、これはおいしい」
 湧き上がった拍手はヒロイン役の女子へ向けられたものだった。水谷と花井が儲け話をしている間に着々とキャストが埋まっていったようで、台詞がないという触れ込みの兵士役はすでに決まっていた。続いて主人公。バドミントン仲間のひとりが、クラスで一番顔のいい男子を推薦する。当然の選択に七組女子の空気が華やぎ、その男子は少し照れた様子だった。
「オレ、ポップコーンはキャラメル味がいいな」
「はぁ? 塩だろ普通」
「塩なんか普通すぎ、すぐ飽きんじゃん」
「キャラメルなんか甘くて食えねーよ」
「いいじゃんディズニーランドっぽくてさぁ」
 だらだらとそんなやり取りをしていたから、黒板の前にいる女子が自分たちの名前を呼んだことに花井と水谷は気づかなかった。

作品名:Our Song 作家名:さはら