二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Our Song

INDEX|7ページ/38ページ|

次のページ前のページ
 


 練習後、泉は水谷の顔を見て思い出したのか、「ウスって餅をつく道具なんだってな」と言った。どんな経緯でウスの真実を知ったのかわからないが、ウスもウシもどうだっていい、何でオレはできもしないことに巻き込まれてしまったのか。
 落胆する水谷を泉は訝しげに思ったが、すぐに花井のフォローが入った。
「こいつ劇でマーセラスやることになったんだ」
「マーセラスって何?」
「主人公の部下みたいな役」
 野球部でクラス劇に関わることになったのは水谷と巣山だけだった。その巣山のテンションも低い。
「主人公が出家するってラストからして巣山が選ばれる雰囲気があったんだけど」
「は、はめられた……」
 この役は巣山君しかできないと一組全員からお願いされてしまい、頼まれると断れない性格の巣山は首を縦に振るしかなかったのだという。
「だからセリフ無いようにしてくれるって言ってたじゃん、安心しろよ」
「違うんだよ、嫌なんだよ、恥ずかしいんだよ、ステージの上に立つのが!」
「あー、わかる。オレも今からすごいヤダ……」
 栄口はそう言うが、セリフの問題ではなく、大勢の人の前で見世物になるのが嫌なのだ。それに、もしかして失敗してしまったら立ち直れないくらい大きなダメージを受けそうな気がする。
「野球部でも出し物の打ち合わせするからなー」
 部室に響き渡るように花井が声を張り上げた。部員たちは「うーす」と返事をする。
「一組の劇って何やんの?」
「戦争ものっぽい」
「出家するのに?」
 栄口はオレも人づてに聞いたから詳しくないけど、と前置きをし、戦争が終わって外国から引き上げてくるときに、主人公が坊さんになって、向こうでずっと供養するから残ったとかなんとか、と首を傾げつつ教えてくれた。
「で、一組には坊主が巣山しかいないという」
「かわいそうだなぁ……」
「水谷は何で?」
「オレはジャンケンに負けたんだよ」
 阿部と花井とジャンケンをして負けたことを言うと、栄口は「ははは」と笑った。
「水谷あいつらに勝ったことないじゃん」
「でもさー、花井はキャプテンで忙しいって考えたら、残るのは阿部とオレなわけ。阿部に劇なんかできるわけなくね?」
「お前それ阿部に言ったの?」
 栄口が少し驚いたような顔になる。
「いや、阿部本人が『出来ると思うのか』って言ってた」
「うわっ、すげー開き直り」
「だからどっちにしろオレだったんだよ……」
 はぁ、と堪えきれず出した溜息で胃が重くなる。練習後で何も入っていないはずなのに、何だか石でもたくさん詰められたみたいだった。
「栄口は何もないの?」
「大道具くらいだなー」
 シャツのボタンを留めながらのん気に喋る栄口がうらやましくて仕方がない。水谷だって本当は劇などに参加せず、風船の色を分けたり、ポップコーンを売ったりすることだけ考えていたかった。
 目立つことは嫌いじゃないけれど、出来ることなら自分の得意な分野で大勢から喝采を浴びたい。だから劇なんてセリフも覚えられないのはもちろん、演技もしたことがないから絶対恥をかくに違いない。

作品名:Our Song 作家名:さはら