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ロマサガ3 カタリナ編2

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 同じく怖気づいていた兵士の一人が恐る恐るカタリナへと近づいてくる。しかしカタリナは微動だにせず、ただ大臣のみを睨みつけている。大臣が冷や汗を掻いている一方で視線が自分に向けられていないことに多少安堵した兵士は、カタリナの腰に掛かっている小剣へと手を回した。

「・・・・・・っ!?ちょっと、どこさわっているの!?」
「す、すみませんっっ!」

 尻を撫でられたカタリナが兵士を一喝する。まるっきり立場が逆になってしまっているが、それを指摘できるほどの度胸のあるものはこの場にはいなかった。

「・・・と、とにかくお前にはしばらく地下牢に入ってもらおう。処遇は追ってゴドウィン様がお決めになるだろうよ。・・・ひひ、お前は以前から男爵様のお気に入りだったからな。ひょっとしたら側室も夢ではないかも知れんぞ・・・?」

 大臣の言葉に、射殺さんばかりの勢いでカタリナが睨みつける。しかし大臣は下品に笑みを浮かべたまま、その場を後にした。そうして彼女は予定通り、地下牢の奥の部屋へと運ばれていった。


 ぱらぱらと、薄い草鞋の座敷の上に数枚のカードが舞う。地下牢というのは思いのほか暖かいものなんだなとのん気に考えながら、カタリナは暇つぶし用に持ってきた占星術タロットを操っていた。
 地下牢に入ってから、どれほどの時間が経過しただろうか。外の様子を窺えないので正確な時間や経過日数などは分からず、体内時計に頼るほかなかった。
 そしてカタリナは、今は待つことが肝要と己に言い聞かせつつも、しかしこの状況に早々うんざりしていた。

(そりゃ楽しいわけがないだろうとは思っていたけれど・・・こうも退屈だと困っちゃうわね・・・)

 壁に寄りかかりながら、ひたすらタロットを弄る。本来ならばこれすら認められないところであろうが、ここまでカタリナを連れてきた兵士達の誰も、彼女が胸部と服の間に隠していたこのタロットを見つけ出そうとするものはいなかった。そして地下牢に入ってからは、相変わらず居眠りばかりの牢番なので見咎められることも皆無なのだ。
 今回の事件に片がついたらこの牢番にはきつく説教をしてやろうと心に誓いつつ、城勤めの侍女が怯えたような心配そうな顔をしながら運んできた何度目かの食事を平らげた後、あくびをかみ殺しながら再びタロットに耽っていた。

(鍵はもう回収したからいつでも出られるわけなのだけれど・・・やはり私が行動を起こすのはミカエル様の軍が城下町にたどり着いてからね・・・。それまでは息を潜めていなければ・・・)

 おそらく、それは時間の問題であろうと思われた。
 いくら軍勢で差をつけようが、ゴドウィン程度の男がミカエルに敵うなどとはカタリナは微塵も考えていなかったのだ。言ってみれば、ミカエルはまさに天才なのだ。君主たるべくして生まれてきたといっても過言ではない。
比べて血縁上はミカエルの叔父に当たるとはいえ、今回の事変の黒幕であるゴドウィンという男は、カタリナから見ても才気の欠片も見えぬ退屈な人物であった。
何度か国の祭典の際に顔を合わせたことはあるが、ニヤニヤとした締りの無い顔、脂ののった額や体型といった印象しかない。
付け加えるならば、定期的に催されていた舞踏会などでカタリナは何度かこの男に声をかけられたことがある。先の大臣の言葉を省みても、どうやら自分はあれに気に入られていたらしいと思うと、背筋が凍る。貴族たるものが品格を磨かず色欲に耽ろうとは、愚かにも程がある。それでいて先代の遺志を継いで~などとのたまうのであれば、それこそ先代への冒涜といっても過言ではないだろう。
ミカエルの父親であった先代ロアーヌ候フランツは、これまた名君であった。
十六年前に全世界に災厄をもたらした史上三度目の大災害『死蝕』の後、驚くべき速さでロアーヌを建て直し、世界に先駆けてその情勢を確固たるものへと作り上げた。当時荒廃しきった世界では犯罪も頻発したが、いち早く復興を遂げたロアーヌはその中でも異例の厳格さを誇った国であろう。
 そしてさかのぼること三ヶ月前、突然の名君の崩御にロアーヌ国民が涙した時、その後の即位直後から父親を上回る機転で情勢を持ち直したのが、現ロアーヌ候であるミカエルだった。
 どうしても先代フランツの一本柱に思われていたロアーヌの地は、先代崩御直後は殺伐とした雰囲気に包まれていた。外交情勢も雲行きが怪しくなり始め、宮廷内外共に浮き足立った状態が続いた。
その中で半ば強引に即位をしたのがフランツの息子、ミカエルであった。即位の際にその若すぎる異例さ、摂政を置かぬ無謀さにひと悶着こそあったものの、それを圧し沈めたミカエルはその後の執政の結果を以て周囲に有無を言わさず納得させたのだ。
 今既に国民からは先代に劣らぬ名君の誉れ高く、貴族連盟もミカエルを名実共にロアーヌ候であると認めた。
 だが、やはり納得しない輩はいたのだろう。今回の反乱がいい例だ。ゴドウィン男爵だけならばまだしも、先代から仕えていた大臣までがその謀反に加わろうとは。

(・・・仕方のないことなのかな・・・。いつの時代も権力にすがろうとする輩は絶えない・・・。誇りの伴わぬ権力に意味などないというのに・・・)

 ため息を一つつくと、カタリナはタロットを集めて一箇所にまとめた。なんだか意気消沈してしまったのでこれ以上続ける気分にはなれなかったのだ。

「・・・なんだ、もう終りにしちまうのかい?見てて面白かったんだけどな」
「・・・!!?」

 突然、背後から声が聞こえてきた。驚く間もなくカタリナは寄りかかっていた壁をすばやく蹴って反転する。丸腰ではあるものの臨戦態勢をとりながら先ほどまで寄りかかっていた壁をみるが、特に人影は見当たらない。

「・・・おいおい、そんなに驚くなよ。こっちだ、こっち」

 しかし声は聞こえてくる。疑問符を浮かべながらカタリナがよくよく壁を注視していると、なんと上方に穴が開いており、そこから見知らぬ男が身を乗り出しているではないか。

「よっ、別嬪さん。はじめまして。俺はポールっていうんだ」

 にこやかに挨拶をする男に面食らいながらも、カタリナはとりあえず臨戦態勢を解いた。どうやら相手も武具は持っていないようだし、どうも穴自体は男が通り抜けられるほどの大きさは無いようだ。

「・・・囚人ね。私に何の用かしら?」

 言ってから自分も今は囚人であることに気がつくが、この際それには目を瞑ることにして男を正面から睨んだ。すると男は器用にも身を乗り出した状態で肩をすくめながら笑って見せた。

「何の用もないさ。ただ、珍しく女の、しかも別嬪さんが地下牢に連れてこられてきたとあっちゃ、興味津々なんでね。一昨日から気がついてはいたんだけれど、顔見知りになりたくて今こうして挨拶に参上したわけ」

 軽そうな口調で笑うポール。あまり好きなタイプの人間ではないが、どうやら相手は敵意も持っていないようなので、カタリナはある程度リラックスしながら言葉を返した。ついでに言えば自分がここに入れられてから二日が経っていることが確認できたのも収穫としておこう。