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こらぼでほすと 闖入10

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「そうですね。菩薩も、そのぐらのインターバルがあれば応じてくれるでしょう。」
「金蝉、寂しいなら悟空とデートでもしてこいよ。」
「・・・うるさい。もう十分だ。」
 小さかった悟空なら、手放すのも不安になるが、すっかり大人になったので、童子様も、そういう意味の心配はしていない。存分に、人界で楽しく過ごせばよいと思っている。まあ、ちょっと寂しいのだが、それは言わぬが華というものだ。





 土曜日の午後から、年少組も参加して動物園を訪れた。日中やっているほうではなく、ナイトサファリのほうだ。歌姫様から連絡をしてもらったから、そちらの職員たちも、すぐに案内してくれる。そろそろ季節としては冬に近いから、動物たちも休養舎のほうに居座っているらしい。


 虎の休養舎の前で、職員は一応、注意事項は説明したが、悟空のことは知っていた。以前も止めたのに、虎を手懐けたことは有名だ。だから止められることもなく、すんなりと休養舎に招き入れた。
「とりあえず、挨拶してくるから待ってろ。」
 悟空が一人で、そちらに入る。襲われる心配はないから、イノブタ、カッパと上司様一行は涼しい顔だ。ごおっと吼える声は聞こえたが、すぐに静かになる。そして、悟空が戻って来た。
「大丈夫。刹那、行くぞ。キラも来る? あとは、もうちょっと進んだとこで待ってて。」
「行く。」
 虎のほうは、悟空を覚えていたらしい。ぞろぞろと三人が奥へ進むので、残りも後からついていく。檻ではなく、広い休養舎には人工灯がつけられ、植物も植えられている。それによって虎の姿は見えない。さくさくと進む三人は、奥の広場になっているところへ辿り着いた。そこに、虎は待っている。
「刹那、どうだ? 怖くないか? 」
 悟空が、そう声をかけると、刹那は首を横に振る。こんなに間近に見られたので驚いているが、それには恐怖を感じていない。むしろ、美しいと思った。
「とりあえず、刹那からな。目は絶対に逸らすなよ?」
 キラには、その場で待機させて、さらに進む。刹那の手を引いて、虎の前に歩み寄ると、虎は大人しく待っていた。警戒する素振りもない。じっと刹那が睨むと、虎も視線を合わせる。しばらく、そうやって無言で睨んでいたが、虎のほうが視線を下げた。
「おまえにも迷惑をかけている。すまない。」
 そう、刹那がぺこんとお辞儀をすると、虎は一歩前進した。そして、悟空に視線を投げて、さらに近寄る。
「鼻を合わせるのが、こいつらの挨拶。」
「わかった。」
 ついっと顔を虎の前に出したら、虎も刹那の鼻にこちんと鼻を合わせる。ふんふんと何度か匂いを嗅ぐと、ぺろんと刹那の鼻を舐めた。
「刹那は仲間なんだな。」
 感心したように、悟空が呟いた。悟空には、そういうことはしてくれない。上下関係が成立しているから、腹を見せる仕草をするのが常だった。
「ひとりなのか? 」
「ああ、こいつの仲間は昼の動物園にいる。あいつとこいつだけだ。どっちもオスだから、これ以上には殖えない。」
「そうか。」
 悟空と話していると、虎は刹那の胸辺りを前足で叩いた。大きな足だから、刹那がよろける勢いだ。
「構えってさ。」
「どうやって? 」
「一緒に、そこいら歩いてみろ。俺の見える範囲で。」
 わかった、と、刹那が歩くと、虎もついてくる。並んで、たまに虎が刹那のほうに寄りかかるから、足元がもつれて転がった。すると、虎は刹那の転がった身体を前足でドスドスと叩く。さらに、よいこらせ、とばかりに圧し掛かる。
「・・・重いぞ、おまえ。」
 べろべろと刹那の顔を嘗め回しているところを見ると、歓迎されているらしい。ただし、大型獣だから刹那がひしゃげそうな勢いだ。
「すげぇーな、刹那。こいつ、完全に仲間扱いだ。」
 なぜだかわからないが、刹那も何かしら虎か好意的なのはわかる。今まで動物と接したことがないので、よくわからないが歓迎してくれているのは雰囲気でもわかった。だから、刹那も鼻頭を撫でてみる。耳の後ろあたりが気持ちいいポイントだ、と、悟空が指示してくれるので、やってみると、虎の視線は柔らかくなった。
「これなら大丈夫だな。キラ、みんなも入れてくれ。」
 手前で待っていた残りもやってくる。先頭は、ニールだ。虎に乗りかかられている刹那に慌てている。
「せっ刹那ぁっっ。」
 その声で、虎が顔を上げた。咆哮してニールを睨む。いかな元テロリストといえど、これは怖い。足が竦んで立ち止まった。それを見て、刹那が虎の横っ面に軽いパンチして、その首筋にしがみつく。
「あれは、おれのおかんだっっ。吼えるなっっ。」
 ぎゅむっと首筋に回した腕に力を込めると、虎も視線を刹那のほうに下げる。本来、首というのは急所だから、そんなことをしたら噛み殺されるものだが、虎は、そういうこともない。
「おれのおかんにも触らせろ。おまえの毛並みは気持ちいい。」
 そう叫ぶと、虎も大人しく座り込む。刹那が下から這い出て、となりに座ると寄りかかってくる。
「ニール、大丈夫だ。」
「はい? 」
「もう触れる。」
「え、いや。それってさ、刹那。猛獣なんだぞ? 」
「大丈夫だよ、ママ。刹那は、あいつのツレと認識されてるから。ほら。」
 悟空が戻って、ニールの手を引いて虎の横に案内する。触れると言われても、怖ろしいものは怖ろしい。だが、刹那は虎の耳の後ろをかりかりしてやっているし、虎もうっとりしている。そっと手を伸ばしたら、ぴくぴくと皮膚が動いたが、何もされなかった。
「なっなんで? 」
「よくわかんねぇーけど、こいつ、刹那が気に入ったらしい。キラ、おまえも来いよ。」
 もちろん猛獣だから、じゃれたりほたえたりすれば、感覚の違いで刹那が怪我をすることもある。だから、悟空も監視したままだ。キラがとてててっと走り寄ると、虎の視線はきつくなるが、悟空の威圧で黙っている。さわさわと背中を撫でてキラもニパッと笑顔になる。だが、虎は無視だ。刹那に視線を向けている。
「おまえたちの仲間にも被害を出している。それは謝る。だが、それを避けるのは難しい。謝るしかできないのは許してほしい。」
 真面目に刹那は、希少動物に謝っているのだが、虎は聞いているのか、じっと見ているだけだ。
「ニール、こいつは一人なんだ。」
「うん、そうだな。」
「俺も、子供の頃は一人だった。だから、寂しいんだろうと思う。」
「うん。」
「向うの虎も、きっとそうだから、俺のことを見ていたんだ。」
 いや、普通はそんなこと感じないんだけど、と、ニールは内心でツッコミするのだが、この状況は、何か意思疎通できているのは間違いない。ゆっくりと、シンとレイも近寄って来るが、さすがに悟空に止められた。だが、上司様たちがやってくると、虎はすごすごと刹那の腹に顔を隠した。



「ほんとに猫みたいな虎ですね。」
「飼われているからな。」
 捲簾と天蓬の気配が強いから、虎も大人しくなった。それを見て、悟空がシンとレイも近寄らせて触らせた。さわさわと触ると、すぐに戻る。
作品名:こらぼでほすと 闖入10 作家名:篠義