こらぼでほすと 闖入10
「別に大丈夫だぞ。捲簾と天蓬が、そこに立ってる限りは暴れない。」
「いや、怖ぇーよ。」
「刹那、なんともないのか? 」
虎の口元には、大きな牙が見える。それに巨体だ。さすがのザフトレッドも怖いらしい。ニールも離れようとしたら、虎に前足をかけられた。
「げっっ。」
「ニールはいいんだ。俺のおかんだから側に居ていいそうだ。」
「会話できるのか? 」
「いや、なんとなく伝わってくる。」
信じられない光景だが、ニールも、そう言われてしまうと離れられない。側にどっかりと座り込む。
「人に慣れているんだな? 」
「そうでもないぜ。こいつ、飼育員なんか見向きもしねぇーもん。なあ? 」
「虎ですからね。人間はエサという認識だと思いますよ? ニール。」
八戒は、にこにこと怖ろしいことを吐く。悟浄のほうは、ふらふらと官舎の中を散歩している気楽さだ。こちらも、虎に襲われても対処可能な面々だから怖いことはない。金蝉にいたっては、悟空のとなりで、のんびりと缶コーヒーを飲んでいる。
「じゃあ、なんで、刹那は無事なんですか? 」
「気が合ったんじゃないですか? または一目惚れ? 」
「野生が残ってるんじゃないですか? 黒ちびちゃんは。だから、虎も仲間だと認識してるんでしょう。」
「ついでに悟空の知り合いっていうのも重要なとこなんだろうな。」
「それと、黒ちびは小虎だと思われているんだろう。だから、オスという認識じゃないんだ。オス同士なら縄張り争いになるからな。」
金蝉の説明に、なるほど、と、一同も納得する。どんな猛獣でも、子供は保護対象だ。生存競争の厳しい環境でなければ、保護して育てることはする。
「俺は子供じゃない。・・・・確かに、おかんと一緒だが成人はしている。」
金蝉と虎に、刹那は言うのだが、童子様はニャッと笑ったし、虎のほうは、ベロリと刹那の頬を舐めている。そう向きにならなくても、おまえは子供なんだ、と、言っているような態度だ。
しばらく、そうやって和んでいたが、そろそろ遊ぼうと、悟空が虎のしっぽをくいくいと引っ張った。
「せっかく来たんだから遊ぼうぜ。」
はいはい、退避退避と、八戒と悟浄が全員を虎から引き離す。悟空の遊びは豪快なので近くに居ると、余波がくるからだ。刹那が離れると虎も立ち上がる。ぐるるるるっと威嚇した声を出した。
「おしっっ、こいっっ。」
ばっちこいっっ、と、悟空が構えると、虎も飛び掛る。ごろごろと地面を一匹とひとりが絡まるように転がっているが、止まると飛び退く。さらに噛み付こうと虎が突進するが、悟空はひょいと、それを飛び越える。まるで、サーカスみたいなことになっている。
「いいストレス発散になるんでしょうね。」
八戒が、ニールの横で、そう解説する。普通、こういう場所に暮らす動物というのはストレスを感じて、それで病気になる。ここの動物園は限りなく自然に近い展示で有名だが、それでも閉じ込められているというストレスは溜まるのだ。だから、そういう意味では、こういう全力でじゃれることはストレスの発散に叶っている。ただし、これができるのは、虎より優位なものだけだから、特区では悟空くらいだろうということだ。
「おい、サル。怪我させるなよ? そいつも、もういい年なんだぞ。」
「わーってるっっ。」
がおがおと襲い掛かっている虎にパンチしたり蹴りをいれたりしているが、悟浄の注意通り、力は入れていない。
「刹那、後で昼の動物園の虎さんにも挨拶に行こうね? あっちは夕方になったら身体が空くから。」
キラは、そう言って、サルと虎のバトルの見物をしている。こちらは夜の部だから、昼間は客が居ない。対して、昼のほうは、夜は休みだから、あちらは、それから顔を出すのが、いつものパターンだ。
「あいつにも会えるのか? キラ。」
「うん、いつも、どっちにも会うよ。不公平でしょ? あっちの虎さんだって悟空の友達だもん。」
「他のは、どうなんすか? キラさん」
「他の子? 他はたくさんいるから悟空が大変なんだよね。草食動物なら案内してもらえるよ、シン。」
虎のストレス発散に付き合っているので、ここの飼育員たちも、悟空には親切だ。望めば、どの休養舎でも入れてもらえる。他の肉食獣は多頭飼いだから、ストレス発散に飛び掛られると、悟空が忙しい。それに悟空は馴染みのある動物しか興味が無いので、ライオンだのヒョウだのとは接触していないと、キラは言う。
「じゃあ、パンダは? 」
「あの子たち、展示されたのが最近なんだ。僕らが遊びに来てた頃は、まだいなかったから、どうかな。悟空にいえば、触れるかも。」
そんなことを話していたら、悟空が、虎をぽぉーいっっと投げていた。さすが猫科の動物なので、投げられても器用に回転して着地する。わはははは・・と悟空は大笑いしている。ものすごく楽しそうだ。
ナイトサファリから出て、夕方までぶらぶらと昼間の動物園を散策することにした。さすがに肌寒いから、南国の動物たちは動きが少ない。気温はいかんともし難いから、展示スペースの前のほうに暖房が設置されていて、そこに動物たちが集まるような仕掛けはしてある。
「つまり、あれか、俺とレイは草食動物で、おまえらは肉食動物ってことか。」
途中のカフェテリアで休憩して、ニールが切り出した。夏の動物園のふれあい広場での光景からすると、そういう結論になる。
「俺は、ママとお揃いですね。」
「でも、俺、刹那ほどの度胸はねぇーから、狼ぐらいかな。」
「シンは、犬クラスじゃねぇーのか? おまえ、わんこ体質だろ? 」
「うっせぇーよ。悟浄さんはエロカッパなんだろ? 」
「ニールとレイだと羊さんですかねぇ。ちなみに僕はイノブタですが。」
「僕は何にしようかな。可愛くウサギとか? 」
「「 天蓬 」」
とんでもないぶりっ子なので、童子様と大将様が即座にツッコミだ。それなら、あなたたちは、どうなんです? と、切り替えされて、どちらも顔を顰めた。何に例えても、容赦なく返されることは目に見えている。
「金蝉さんは、白い馬がいいな。捲簾さんは、熊なんか、どう?」
で、さらに事態を考慮しない大明神様のご指摘に、元帥様も大喜びだ。いいですねーと同意している。
「でもね、キラくん。白い馬っていうより、金蝉は白いポニーのほうが可愛いと思いませんか? それに、うちの亭主は熊でも熊狸猫のほうが似てますよ。」
「熊狸猫? 」
「ええ、ナマケモノみたいな黒い狸です。」
「あははは・・・それ見てみたいっっ。アスラン、ここにはいる? 」
キラが、そう言うと、アスランはパンフを広げる。元帥様がおっしゃるような珍しいのがいるのかどうか・・・と、思っていたら、本当に小動物エリアにいるらしい。
「キラくんは、カワウソとかテン? ああ、高級感があるから、ミンクかな。」
「えーーー僕、チータとかがいいなあ。」
「いえいえ、その可愛さは小動物ならではですよ。」
「天蓬さんも、ウサギって合ってるよね? 」
作品名:こらぼでほすと 闖入10 作家名:篠義