こらぼでほすと 闖入10
うわぁー寒い、と、その光景を大将様と童子様はスルーする。何が可愛いんだ? と、言いたいところをぐっと堪えている。内心で例えるなら、おまえらはマングースじゃねぇーのかっっ、とツッコミはしている。猛毒のコブラすら倒すくせに、見た目は可愛い小動物。とてもぴったりな例えだ。
「じゃあ、熊狸猫を見に行きましょうか? 」
「うん、まだ時間があるから行こう。」
仲良しマングースな天蓬とキラはカフェテリアの席を立つ。閉演時間まで一時間はあるから、ちょっと行って来ようという計画になった。
「刹那、見て来いよ。俺は休憩してる。」
ニールは、さっきのショックで疲れたから休憩を続行する。さらに、もう一頭の虎とも対峙するのなら、体力温存だ。
「いや、あんたが行かないなら、俺も行かない。」
黒子猫は、ぺとっと親猫にへばりついた。そのほうがいいですね、と、アスランも頷く。あまり動き回ると疲れるから、そのまま休憩していてもらうことにした。シンとレイは行っておいで、と、ニールが言うと、じゃあ、と、立ち上がる。
昼の動物園の虎も似たような反応だった。そして、パンダは夜行性ではないので、食事風景を中に入れてもらって観察しただけだ。食べ終わると、すごすごと寝床に戻ってしまったからだ。というか、上司様の気配と悟空の気配のダブルパンチで怯えていたのが正解かもしれない。
坊主は寺に居残っていたから、一同、そちらに戻って食事となる。そこから作るのは大変だから、適当にスーパーで出来合いも仕入れてきた。上司様ご一行と店の夫夫さんたちは、そのまま別行動だと消えたので、ほとんど身内ばかりだ。
「キラ、明日出発する。」
唐突に食事の席で、黒子猫が出発を宣言する。はい? と、寺の女房は動作を止める。
「デートもしたし、悟空も戻って来た。」
「まあ、そうだけど。」
「大陸を移動するのは時間がかかる。」
「うん、そうだね。わかった。整備は終ってるから、他の資材の積み込みだけしてもらうよ。」
なんだかんだで三週間近く、寺に滞在しているので、そろそろ出発しないといけない。時間には限りがある。組織で全機ロールアウトすれば、戻らないといけないからだ。
「次に逢う時は、大きくなってるんだろうな。」
次の再会は数年後だ。黒子猫が生き延びていれば、また再会することになると、金蝉も微笑む。この不思議な気の正体も、その時には判明するだろう。
「ママ? 」
手を止めたままのニールに、レイが声をかける。すると、ああ、と、また動き出す。引き止めるわけにはいかないから、笑顔で、「気をつけてな。」 と、黒子猫に言うだけだ。
「今夜は一緒に寝る。」
「はいはい。ナイトガウンを用意できなかったな。」
「この次でいい。春までには戻って来る。・・・桜を見ないといけない。」
「・・・ああ・・・」
寺の境内にある桜が満開になるのを、刹那は見たことが無い。だから、それを見ようと約束している。
「じゃあ、盛大に今夜は刹那の送り出し大会。」
キラが、しんみりした気分を変えるために大声で宣言すると、シンも、「じゃあ、朝までコース。」 と、盛り上げるために大声を張り上げる。しばらくは、こちらに居候しとかないと、と、レイは内心で予定を建てる。黒子猫が出かけると、しばらくは、親猫は静かになるし、ひとりだと寝られなくなる。だから、誰かが一緒に寝るようにしている。
翌日、黒子猫はキラとアスランとラボへ向かった。別荘も出入り禁止のニールは、寺で見送るだけだ。日曜なので、レイとシンも、こちらに居座っているから、何かと声をかけている。
「大丈夫だよ。」
「大丈夫じゃねーだろ? ねーさん。墓地の掃除は、今日でなくてもいいから、ちょっと出かけようぜ。」
墓地の掃除をしようとしていたニールの手から、シンが箒を取り上げる。出禁で見送れないから、余計に気にしているので、気晴らしに外へ出ようと誘っている。ちょっと外出して疲れさせないと昼寝もしないからだ。
「シン、俺も行くぞ。」
「おう、悟空。どこへ行く? 」
もちろん、悟空も連れ出すことには賛成だ。どこと言われて、しばらく考えて、店の近くのショッピングモールでどうだろうと言い出した。
「あのさ、刹那のナイトガウン買いに行こうよ。あそこなら、そういうのもあるんじゃないかな? 」
「でも、あいつ・・・帰ってくるのは春だぞ? 」
「春でも夜は涼しいだろ? 大丈夫、大丈夫、着られるって。」
「うん、それ、いいな。俺らも、服見たいし。行こう、行こう。」
「ママ、俺の服見立ててください。どうも、俺にはファッションセンスというものがないので、似合うものがわからなくて・・・」
三人三様に、ぴーぴーと喚くと、ママも、わかった、と、頷く。気晴らしに連れ出してくれるのは解っているから、便乗することにした。
「昼は外食しようぜ。」
「でも、金蝉さんも三蔵さんも行かないぞ? 悟空。」
「たまには、ふたりで出かけて外食させればいいじゃん。」
悟空がそう言って、居間に転がっている坊主と童子に、そう言うと、おーという返事だ。スーパーのほうへ出向けば、飲食店もあるから、別に困ることはない。童子様も、これといって食に拘りがあるほうでもないから、外食でも嫌がりはしない。
「いいんですか? 」
「三食三食、おまえのメシじゃ、金蝉も飽きるだろう。ファミレスで食ってくるから、おまえは、この五月蝿いのを外へ出せ。ぴーぴーとかしましくて寝ても居られないぞ。」
「後学の為に、ファミレスも体験しておくさ。気にするな、ニール。」
坊主も童子様も、そう言って、手をヒラヒラさせているので、ニールも、それでは、と、出かける用意をした。
「んじゃ、夕方には帰るからな。」
「おう、行って来い。」
「楽しんで来いよ? 悟空。」
わいわいと騒々しいのが出かけると、寺は静かになる。やれやれ、と、坊主がタバコに火をつける。
「おまえの女房は、過保護にされてるんだな。」
童子様も起き上がって、同じようにタバコを口にする。成人した青年だというのに、わざわざ三人もへばりついているのだ。気落ちさせないためとはいえ、過保護だとは思う。
「ああでもしないと、具合が悪くなんだよ。」
黒子猫がいなくなると、途端に顔色が悪くなる。年少組にはわからない程度だが、そのまま放置すると寝込むから、年少組も気付いた。だから、子猫がいなくなると連れ出したり、居座ったりして騒ぐようにしているのだ。
「壊れちまうか? 」
「そこまでじゃない。けど、完全に消えたらヤバイだろうな。」
どれか一匹でも消えてしまったら、坊主もマズイとは考えている。今の所は、これでどうにかなっているが、本格的に組織が再始動したらマトモでいるかは微妙だ。
「存在意義を、おまえにしてもらったらいいだろう? 」
「しねぇーだろうさ。あいつにとって、俺は空気みたいなもんだと思うぜ、金蝉。」
「居て当たり前か? 」
「そうだろうな。」
作品名:こらぼでほすと 闖入10 作家名:篠義